「コンバット」編集室で来訪者と話すティスタ・セト ルバットさん(中央)。「印パの子どもたちが直接交 流できる機会を多くつくってゆきたい」 (ムンバイ市) |
「パキスタンの学校には制服がありますか?」「昼休みはどのよ うに過ごしますか?」…。
ムンバイ市街地にあるボンベイ・インターナショナル・スクール (BIS)の七年生三十三人は、昨夏、パキスタンの子どもたちに 便りを書いた。名付けて「ピース・パル」(平和の仲間)プロジェ クト。手紙のやりとりを通じて、互いに相手国のことや、個人的な つながりを深めようとの狙いである。
「もともとアイデアは、地元の女性ジャーナリストで社会活動家 が持ち込んでくれたんですよ」。紫のサリーをまとった校長のゴマ ーティ・ベンカテェッシュウォーさん(58)が、大きな目を丸めて言 った。
その発案者ティスタ・セトルバッドさん(35)に後日、市内北部の 自宅兼オフィスで会った。宗教上の偏見、差別などを中心テーマに したタブロイド判月刊誌「コミューナリズム・コンバット」を、一 九九三年八月から夫(47)とともに発刊する。
「最初にBISへ話を持ち掛けたのは九四年。宗教に根差した偏 見、差別をなくすための教育プロジェクト推進のためよ」。手狭な 編集室で、彼女は経緯を説明してくれた。
月刊誌発行も教育プロジェクトも、九二年十二月から年明けにか け、ムンバイで起きたヒンズー教徒とイスラム教徒の激しい対立が きっかけだった。この衝突で推定千三百人の死者が出た。犠牲者の 八〇%以上はイスラム教徒だった。
ヒンズー教徒のセトルバッドさんは、「国際都市」の故郷で起き た事件に大きなショックを受けた。宗教上の違いがもたらす偏見。 祖父母から親へ、親から子へと、その偏見が受け継がれる。
「偏見を絶つにはその根っこを見据えないと駄目。それを学校教 育の中でできないだろうか…」
BISは、彼女が持ち込んだ提案を「教育方針に合致する」と、 すぐに採用した。五―七年生で具体的な取り組みが始まった。
市内のモスクを訪ね、関係者からイスラムの祈りについて説明を 受ける。イスラム教徒の住む貧しい地域を訪ね、そこの住民から話 を聞く…。子どもたちは、体験に基づいてエッセーを書き、絵をか き、意見交換する。
現場の教師と協力してのフィールドワーク。そんな取り組みの過 程で「なぜインドはパキスタンと仲良くできないのだろう」との疑 問が、子どもたちの間から自然とわいてきた。
「ピース・パル」の取り組みはそこから生まれた。十二歳になる 七年生がまず始めた。相手先は、カラチにある私立校の高等学習セ ンター(CAS)。BISと同じ、小学校から高校まで英語での一 貫教育を進めている。CASは十四歳の九年生のクラス四十人が参 加している。
私が取材した十一月下旬には、両国間の郵便事情などのためまだ 返事が届いていなかった。ところが、今月半ばにセトルバッドさん に電話連絡すると「十二月にようやく最初の手紙が届いたの。これ までに三度やりとりをしている」と、明るい声で言った。
「パキスタンの子どもたちは、インドのフェスティバルやテレビ 番組、ホッケー、宗教、勉強の仕方など、いろんなことを尋ねてき ている。こちらの子ども同様、好奇心でいっぱい…」
彼女が現在進めている計画は、今年十一月の二週間の相互訪問。 一週間は、それぞれの学校で一緒に授業し、残りの一週間は観光に 充てる。滞在はホームステイ。既に両校校長から賛同を得、今は文 通中の子どもたちの中から親の了解の下に参加者を募っている。
「ピース・パル」プロジェクト拡大のため、ムンバイの他の三校 にも働き掛け賛同を得た、という。「今、カラチとラホール、イス ラマバードの三都市で相手校を捜しているところなの」
印パ両国の子どもたちを結ぶセトルバッドさんの「ピース・パ ル」プロジェクトは、この半年余で確実に広がりを見せている。