家族を守るため戦士に/武装ゲリラ


身の危険の冒しながら反政府武装ゲリラと戦うカマール・ シャカットさん(右)。部下に命令するその目は鋭い
(クプワラ市)

 クプワラ市のナショナル会議事務所で、インド政府側に付いて活 動する、十代後半の若者たちの話を聞いているうちに、彼らより年 上の大男が部屋に入って来た。

 一九〇センチ、九一キロ。三百五十人を率いる「コマンダー(指揮官 )」という彼は、古いベッドからせんべい布団を一枚引っ張り出し て床に敷き、その上にどっかと座り込んだ。

 カマール・シャカットさん。二十三歳。グループのほとんどの若 者が自分の名前すら書けない中で、彼だけが大学を卒業し、英語を 話した。

 「ガン・カルチャー(銃文化)をなくしたいんだ、このカシミー ルの地から…。でも、パキスタンの情報部(ISI)は、武装ゲリ ラを支援してこちらに送り込み、カシミール人を傷つけている」  シャカットさんは、どすの利いた声で一気にまくしたてた。自分 たちは、インドからの自治権や独立を求めるカシミール人の闘いに 反対しているのではない。だが、それはパキスタンの支援なしで、 インド政府との平和的な交渉で獲得すべきだ、という。

 「でも、なぜ、あなたはインド軍の民兵のようなリーダーを務め ているのか」

 「それはこうだ」。彼はそう言って一年余り前の出来事を語り始 めた。

 クプワラ地区で生まれたシャカットさんは、地元の中学で英語を 教えていた。生活を少しでもよくしようと、請負人仕事も手掛け た。そんな時、イスラム教のムジャヒディン(聖戦戦士)のゲリラ 数人が彼に近づき、仲間に加わるように誘った。

 カシミール人の知り合いの顔もあった。「加わらないと殺す」と 脅迫された。しかし、自分には面倒を見なければならない両親がい る。それに、もっとほかの能力があるはずだ。

 彼は断った。すると、しばらくして今度は「五万ルピー(約十七万五 千円)を寄付しろ」と要求された。月々四、五千ルピーの収入の彼には 大金だった。お金を一度出せば、しばらくしてまた彼らは同じ要求 をするだろう。

 逃げ延びる道はない。「でも、なぜ、自分が彼らから隠れなけれ ばいけないんだ」。そう思った。同じように武装ゲリラに苦しめら れている人たちを身近に知ってもいた。

 シャカットさんは、インド政府側に立つ武装ゲリラのリーダーと 接触。「家族を守ってくれる」との約束を取り付け、グループに飛 び込んだ。

 戦闘員としての特別な訓練は、受けていない。しかし、彼はゲリ ラ部隊との何度かの遭遇で勇敢に戦い、戦功を積んだ。教育もある 彼は、たちまち大きなグループのコマンダーになった。

 シャカットさんらの主な任務は、反政府武装ゲリラのメンバーを 見つけ出すことだ。組織や顔を知っていることが多く、インド軍も そこに期待する。

 「でも、自分たちも顔を知られている分、狙われやすいんだ」。 彼とこうして話している間にも、何度か部下が外の様子を報告に来 た。

 以前よりクプワラ地区の治安はよくなった、という。そんな事情 もあり、彼自身は今、「拳銃すら持っていない」と言った。「早く ガン・カルチャーを終わらせたいんだ。この七年間でカシミール人 が何人死んだと思う?ゲリラやら市民含め五万人も…」

 シャカットさんの思いに偽りはないだろう。しかし、彼が抱く希 望と現実の間にはなお、大きな隔たりがあった。

 彼らと別れ、明るい戸外に出た。メーン道路を歩きながら「どこ からか撃たれるのでは…」との恐怖感に、ふと襲われた。


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