(01.08.02)
市民運動の勢い期待
米国の学生たちを広島市の平和記念公園にボランティアで案内し
ていた十九歳の女性が九月、カリフォルニア大に入学する。二年
前、長崎の平和団体が国連に派遣した平和大使を務めた。「国連に
は非政府組織(NGO)専用の入り口があり、驚いた」と振り返
る。熱気あふれるNGO会議に参加。その役割が大きくなると予感
した。一方で、米国の臨界前核実験が足元であまり知られておら
ず、被爆や核兵器の実相などを伝えていく必要性も感じたという。
この女性の予感と行動は、ヒロシマの反核平和運動の方向を端的
に示しているように思える。それは世界の大きな潮流になってきた
国際NGOと市民運動を結ぶ「広場」を築いて米国など核保有国の
反核世論を粘り強く喚起していくことである。
「ヒロシマの未来」を担う願いと期待を受けて今年三月、党派を
超えたNGO「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」が発足した。原
爆の惨禍以降、被爆者や平和運動家の少なくない人が多少とも党派
性を背負い続けてきた。そうした人たちも個人参加で「ヒロシマの
会」に集まる。会員約三百人。当面の目標は千人という。発足アピ
ールは「広島の市民が主役になり、誰(だれ)もが自らの<核廃
絶>への想(おも)いを主張し、行動する場をつくるために…」と
強調している。
「ヒロシマの会」の誕生は新しい風になるのだろうか。被爆地は
今また国際政治の冷厳な現実に直面している。米国ブッシュ政権は
包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准棚上げ方針を示すなど次
々と国際的な積み上げ、合意を崩している。日本政府の対応は鈍
い。ヒロシマ、ナガサキの心を集約して政府へぶつける必要があ
る。九月のCTBT発効促進会議で、イニシアチブを取るように政
府へ迫る世論づくりが欠かせない。米の核の傘と距離を置き、北東
アジア非核地帯創設への地ならしを視野に入れる時期にもきてい
る。
併せて国際世論をいかに喚起するか。ヒロシマの会は六日に「ヒ
ロシマ国際対話集会の夕べ」を主催。米国の反核法律家や前国際司
法裁判所判事らを招く。当初予定していた核開発拠点のロスアラモ
スで活動しているNGOの核兵器問題研究グループ代表の出席はか
なわなくなったが、これを機に交流を進めていきたいとする機運が
運営委員の間に出ている。
欧米のNGOは事務所、専従職員を持ち、政策立案能力もあるタ
フな団体が多い。こうした国際NGOは国連が国家の枠に縛られる
なか、国際会議で発言力を強めている。一方、ヒロシマの会の現状
は「ゆるやかなネットワーク」、換言すればソフトな市民運動の段
階にあると言えよう。まず着実に実績を積んで幅広い市民の共感と
支援を築きたい。
日本の反核運動は「心情・感性」と「平和論」の両輪で展開され
ている。ヒロシマの「心情」を訴えてきた被爆者は老いてきた。そ
れだけに幅広い市民運動も「核廃絶」への道筋を理論的に組み立
て、多様な方法で実践活動を強めなければならない。それが「感
性」の継承と組み合って大きな力につながろう。それには海外NG
Oだけでなく、平和研究との連携も課題となる。
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