緑地帯 指田和 消えた家族を追って <1>
19年12月12日
この夏、私は絵本「ヒロシマ 消えたかぞく」を上梓(じょうし)した。ネコを背負った幼い女の子の写真が表紙の、古い家族写真を元に編んだ一冊だ。
この家族写真に出会ったのは2016年の夏、原爆資料館でのこと。「新着資料展」に足を運んだ際、出入り口からまっすぐ奥に見える壁に、ただただ静かにモノクロの写真がスライドショーのように映し出されていたのを目にしたのだった。照明が絞られているため写真が浮き立つように見え、引き寄せられるように足が向いた。
仔(こ)犬を抱えてアハハと笑う男の子、道路狭しと言わんばかりにろう石でのびのび落書きするきょうだい、お母さんの朗らかな笑顔、黒縁眼鏡の少しおどけたお父さん―。それらは、愛情あふれる家族の日常が写されたもので、私はいっ時、そこが原爆資料館だということを忘れるほどだった。
しかし次の瞬間、映し出された言葉を目にして、私は冷水をかけられたような衝撃を受けた。
「この家族は、原爆で一家全滅しました」
あの時の気持ちを言葉にするのは、今でもむずかしい。でも、資料館を後にした私の胸に、それまでにない強い思いが湧き上がってきたことを覚えている。「このことを、絶対に伝えなければ…」
一家の写真をもっと見たい、撮影した鈴木六郎さんや家族のことを詳しく知りたい。そして書きたい。こうして、私の絵本づくりが始まった。(さしだ・かず 児童文学作家=埼玉県)
(2019年12月7日朝刊掲載)
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仔(こ)犬を抱えてアハハと笑う男の子、道路狭しと言わんばかりにろう石でのびのび落書きするきょうだい、お母さんの朗らかな笑顔、黒縁眼鏡の少しおどけたお父さん―。それらは、愛情あふれる家族の日常が写されたもので、私はいっ時、そこが原爆資料館だということを忘れるほどだった。
しかし次の瞬間、映し出された言葉を目にして、私は冷水をかけられたような衝撃を受けた。
「この家族は、原爆で一家全滅しました」
あの時の気持ちを言葉にするのは、今でもむずかしい。でも、資料館を後にした私の胸に、それまでにない強い思いが湧き上がってきたことを覚えている。「このことを、絶対に伝えなければ…」
一家の写真をもっと見たい、撮影した鈴木六郎さんや家族のことを詳しく知りたい。そして書きたい。こうして、私の絵本づくりが始まった。(さしだ・かず 児童文学作家=埼玉県)
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