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[考 fromヒロシマ] 加盟23ヵ国 年内発効見えず 核兵器禁止条約 採択2年

日本 政治レベルで関心低く

 「被爆者の悲願」とも言うべき核兵器禁止条約が米ニューヨークの国連本部で122カ国・地域の賛成により採択されてから、7日で2年を迎えた。2019年中にも条約発効のめどが付く、との見通しが一部にあったものの、今のところ加盟国は23カ国で、発効要件の50カ国にはまだ遠い。この現状から、どんな事情が見えてくるだろうか。国内外の動向を基に、発効への展望と課題を探る。(金崎由美)

 保有、製造、使用、譲り渡しなどあらゆる面で核兵器を違法とする核兵器禁止条約は、交渉会議で採択された後、17年9月に各国による署名が始まった。条約参加を決めた国は、まず政府代表が条約に署名。次いで、議会承認などの国内プロセスを踏んで批准し、加盟国となる流れである。

 国連軍縮局のデータによると、署名済みは70カ国。これとは別に、クック諸島は署名を経ずに批准に準ずる手続きをした。現在の批准国は計23で、さらに27カ国増えれば90日後に発効する。

「保有国から圧力」

 「発効は時間の問題ではあるが、一部の国が署名をためらうほど核保有国からの圧力があるのも確か」。広島市内で先月あった市民団体「非核の政府を求める広島の会」の講演で、核兵器禁止条約の実現に貢献した非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))の川崎哲(あきら)国際運営委員が強調した。

 川崎さんの発言は、複数の国際会議での「実例」が念頭にある。

 たとえば、核拡散防止条約(NPT)の体制強化を議題に開かれた4月2日の国連安全保障理事会の会合。計15カ国の中で唯一の禁止条約加盟国である南アフリカのマツジラ国連大使は「わが国は多大な圧力を受けたにもかかわらず、核兵器禁止条約を批准し、核軍縮への強い関与を明確に示した」と発言した。声の抑揚は「immense pressure(多大な圧力)」を強調していた。

 とはいえ、包括的核実験禁止条約(CTBT)などと比べ、署名・批准のペースが特に遅いわけではないという。長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授は今春、NPT再検討会議に向けた準備委員会での各国の演説を聞き、「保有国の代表もいる議場で、禁止条約への参加意思を明言した国々が印象深かった。署名しても、国内手続きは時間がかかるものでもある」と話す。「ただ、政策の優先順位や関心が低ければ批准は後回しにされる。早期発効は、署名国の市民から政府と議会への強い働き掛けが鍵」

 日本に目を転じると、米国の「核の傘」に依存する政策を堅持しており、条約への賛同という入り口にも立っていない。

議員回答まだ13%

 広島市出身で神戸大大学院生の安藤真子さん(24)=兵庫県宝塚市=は、川崎さんらと協力し、核兵器禁止に関する国会議員の見解を閲覧できるインターネットサイト「核兵器Yes or No⁉ 議員ウォッチ2019」を作成した。今年1月から700人以上の衆参全議員に電話やメール、手紙で接触を試みている。回答済みは、まだ13%だ。

 「賛否という以前に、核兵器問題に対する政治家の関心が予想以上に低い。日本国内の現状も反映している」と安藤さんは考える。4日に参院選が公示され、政策論議の好機でもあるが、比例選出も含めた広島県関連の衆参両院の現職22議員のうち、回答は7日時点で5人にとどまる。

 「日本の安全保障政策のどんな面が条約参加の障害か」といった具体的議論の蓄積や世論の注目なくして、核に頼る政策が転換することは考えにくい。「市民から政府、議会への働き掛け」は、条約に背を向ける国でこそ問われる。

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国内議論の契機に 赤十字国際委 軍事ユニット政策顧問 マグナス・ロボル氏に聞く

 発効が待たれる核兵器禁止条約だが、すでに国際的に存在感を発揮し始めてもいる。赤十字国際委員会(ICRC、本部スイス)の法務部門で軍事ユニット政策顧問を務めるノルウェー出身のマグナス・ロボル氏(34)に、広島市を訪れた機会に聞いた。

 4年前までICANで活動し、核兵器禁止条約の実現に力を尽くした。世界の赤十字社と赤新月社、ICRCなどが2017年11月、全ての国に核兵器禁止条約への加盟と履行を促すことなどを盛り込んだ行動計画を採択しており、現在は実行策を練るコーディネーターをしている。

 この条約ができたことで、核兵器のことを「軍事的に有用な手段」という発想ではなく、「非人道的被害をもたらす兵器」という観点から検討する機運が確かに高まっている。ICRCが依拠する国際人道法と合致する観点である。

 実際に、欧州の一部の国で「禁止条約と自国の政策は矛盾せず両立するか」を巡り活発な議論が起こっている。関心と意識の高まりは、その国にとって条約参加に近づく重要なプロセスになる。

 被爆者の訴えは、条約実現に決定的な役割を果たした。だからこそ、条約採択2年の節目に私たちは広島を訪れた。条約が発効しても核保有国が参加しないなら意味はない、といった批判は当たらない。働き掛けを積み重ねた先に、変化の可能性が見えてくる。被爆者とともに、希望を持って活動を進めたい。

(2019年7月8日朝刊掲載)

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