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デモ拡声器巡り議論 8・6式典

広島市 静粛求め規制視野

主催者 反戦・反核へ意義

被爆者 表現の自由を懸念

 8月6日に平和記念公園(広島市中区)である平和記念式典の最中、周辺でのデモによる拡声器の音を巡って議論が起きている。市は静粛な環境を求めて条例による拡声器の使用制限も視野に入れ、市民アンケートをした。一方、デモの主催団体は「意義がある」として反発を強め、被爆者団体は憲法が保障する「言論、表現の自由」を侵害しかねないと規制には慎重さを求める。(永山啓一)

 議論の発端は市が昨年12月に実施した市民アンケートだった。市内の18歳以上の3千人に郵送。デモの音を「うるさい」と感じているかどうかや、条例による拡声器規制の是非を選択式で尋ねた。5月以降に結果を公表し、それらを基に市は対応方針を決める。

 松井一実市長はことし1月の記者会見で「参列者に静かな中で平和宣言を聞いてもらいたい」とし、対応策の一つに条例による規制が有効との考えを示した。

 「核兵器禁止条約に反対する安倍首相への抗議の声を被爆地の行政が規制するのは絶対に許せない」。今月上旬、「8・6ヒロシマ大行動実行委員会」のメンバー6人が市役所を訪れ、デモ規制に反対する文書を提出した。

 4団体でつくる実行委の共同代表で、国鉄西日本動力車労働組合(動労西日本、東区)の大江照己委員長によると、1999年以降にデモを始め、近年は全国から300~400人が集まるという。午前8時15分の黙とうの時間を除き、拡声器を使って反戦・反核や現政権への抗議を訴え、公園周辺を行進する。「式典中だからこそ、シンボル的な行動として意義がある」と説明する。

 市によると例年、原爆ドーム周辺には複数の反戦・反核を訴える団体や、日本の核武装を主張する団体も入り乱れ、集会やデモを実施。約10年前からは団体同士の小競り合いが発生し、拡声器やシュプレヒコールの声が式典会場に響く状況になっている。市は2014年度から団体に事前に拡声器の音量を下げ、行進ルートを変更するよう口頭で要請しているが、聞き入れられていないという。

 広島県被団協(佐久間邦彦理事長)は市の聞き取りに、市民の自由の制限が太平洋戦争への突入と原爆投下につながったとの見解を提示。規制に反対する文書を提出した。もう一つの県被団協(坪井直理事長)も「慎重であるべきだ」と回答した。一方で前田耕一郎事務局長は「被爆者の多くはデモの音が響く式典を良しとしていない。デモ団体は静かに原爆死没者の慰霊をしたい被爆者の気持ちにも配慮し、良識的な方法を考えてほしい」と訴える。

 拡声器使用の規制では、国会周辺などを対象にした静穏保持法がある。広島県は1993年、右翼団体の街宣車を念頭に拡声器の音量を制限する条例を施行。ただ条文で「表現の自由その他の憲法に保障された基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない」と、適用範囲を厳格に規定している。

 市市民活動推進課の山根孝幸課長は条例による規制について「デモ行為で意見を制限するわけではなく、言論、表現の自由を侵害する意図はない」とした上で、「式典の静謐(せいひつ)を確保するために被爆者や市民の意見を踏まえて何が最善か、考えたい」とする。

平和記念式典に関する広島市のアンケート
 市が昨年12月、無作為抽出した18歳以上の市民3千人を対象に実施した。「式典中の拡声器の声を放置することは、多くの方の心情を害し、式典の趣旨を損なう」との見解を示した上で静粛な環境を保つ方策について、①条例を定めて規制②要請にとどめる③その他―を選択するよう求めている。市はアンケート用紙に「条例による規制を行う場合は、式典の静謐(せいひつ)という公共の福祉の確保と、拡声器の使用による表現の自由の保障との調整を十分行ったうえで、条例を制定する」との注意書きも添えている。

(2019年4月30日朝刊掲載)

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