社説 自衛官の暴言 組織の「緩み」 総点検を
18年4月23日
日報隠蔽(いんぺい)疑惑で揺れる防衛省で再び、あってはならないことが起きた。統合幕僚監部に所属する3等空佐が参院議員に「おまえは国民の敵だ」との暴言を吐いた。相次ぐ不祥事に、軍事組織の暴走を許さない文民統制(シビリアンコントロール)が機能しているか、国民の不安を募らせたと言わざるを得ない。
この3佐は今月16日夜、参院議員会館近くをランニングしていて、小西洋之民進党参院議員を見掛け、罵声を浴びせた。抗議されるなどしたため、発言はその場で撤回したという。
小西氏は国会で陸上自衛隊のイラク派遣部隊の日報問題を熱心に追及し、「安倍内閣は総辞職すべきだ」などと述べていた。そうした発言に3佐は反発したのだろうか。
防衛省は調査して厳正に対処するという。当然だろう。どんなことを言ったのか。なぜこんなことをしたのか。狙いや背景も明らかにせねばならない。
自衛官としての品位を保つ義務や、政治的行為を制限した自衛隊法に抵触していた恐れもある。責務や制約を間違って理解していなかったか、きちんと調べることが不可欠である。
制服組トップの河野克俊統合幕僚長は「いかなる理由があっても、国民の代表である国会議員にあのような発言は許されない」と謝罪した。そうした認識を末端の隊員にまで改めて教育、徹底させることが急がれる。
一方、小野寺五典防衛相の対応はどうしたことか。当初は、「(3佐も)国民の一人なので思うことはあると思うが、口にするかどうかは自分が置かれた立場をおもんぱかるべきだ」と述べた。心情に理解を示したとも受け取れる。事の重大さが分かっていないと批判されるのも無理はない。
「あってはならないこと。発言を擁護するつもりはない」。その後、参院外交防衛委員会で謝罪した。ところが、「内心の自由は認められているが、言動には気を付けないといけない」とも述べている。軍部が政治を差し置いて独走した戦前のようにならないか、大臣として厳しい姿勢を示すのが筋である。それができないのであれば、役職を離れるべきだろう。
暴言の背景に制服組のおごりがあるとも指摘されている。安全保障関連法の施行で自衛隊の活動が拡大した上、国家安全保障会議(NSC)設置で制服組の立場は確かに強くなった。地位が高まって、おごりが生じたとしたら放置はできない。
河野統幕長自身も昨年、憲法9条に自衛隊を明記するとの安倍晋三首相の提案について「一自衛官として申し上げるなら非常にありがたい」と発言して批判を浴びた。2014年の訪米時には、国会審議が始まる前にもかかわらず、安保関連法案が翌年夏までに成立するとの見通しを米軍幹部に伝えていた。
統合幕僚監部が、安保関連法成立を前提に部隊運用に関する内部資料を作成したこともあった。大臣だけでなく、制服組トップがこれでは、組織に「緩み」が広がっているように映る。そんな懸念も拭い切れない。
今回の暴言を個人の問題として片付けず、組織全体を再点検するきっかけにすべきである。おごりや緩みを正さないと、国民の自衛隊への信頼が一層揺らぐことになりかねない。
(2018年4月23日朝刊掲載)
この3佐は今月16日夜、参院議員会館近くをランニングしていて、小西洋之民進党参院議員を見掛け、罵声を浴びせた。抗議されるなどしたため、発言はその場で撤回したという。
小西氏は国会で陸上自衛隊のイラク派遣部隊の日報問題を熱心に追及し、「安倍内閣は総辞職すべきだ」などと述べていた。そうした発言に3佐は反発したのだろうか。
防衛省は調査して厳正に対処するという。当然だろう。どんなことを言ったのか。なぜこんなことをしたのか。狙いや背景も明らかにせねばならない。
自衛官としての品位を保つ義務や、政治的行為を制限した自衛隊法に抵触していた恐れもある。責務や制約を間違って理解していなかったか、きちんと調べることが不可欠である。
制服組トップの河野克俊統合幕僚長は「いかなる理由があっても、国民の代表である国会議員にあのような発言は許されない」と謝罪した。そうした認識を末端の隊員にまで改めて教育、徹底させることが急がれる。
一方、小野寺五典防衛相の対応はどうしたことか。当初は、「(3佐も)国民の一人なので思うことはあると思うが、口にするかどうかは自分が置かれた立場をおもんぱかるべきだ」と述べた。心情に理解を示したとも受け取れる。事の重大さが分かっていないと批判されるのも無理はない。
「あってはならないこと。発言を擁護するつもりはない」。その後、参院外交防衛委員会で謝罪した。ところが、「内心の自由は認められているが、言動には気を付けないといけない」とも述べている。軍部が政治を差し置いて独走した戦前のようにならないか、大臣として厳しい姿勢を示すのが筋である。それができないのであれば、役職を離れるべきだろう。
暴言の背景に制服組のおごりがあるとも指摘されている。安全保障関連法の施行で自衛隊の活動が拡大した上、国家安全保障会議(NSC)設置で制服組の立場は確かに強くなった。地位が高まって、おごりが生じたとしたら放置はできない。
河野統幕長自身も昨年、憲法9条に自衛隊を明記するとの安倍晋三首相の提案について「一自衛官として申し上げるなら非常にありがたい」と発言して批判を浴びた。2014年の訪米時には、国会審議が始まる前にもかかわらず、安保関連法案が翌年夏までに成立するとの見通しを米軍幹部に伝えていた。
統合幕僚監部が、安保関連法成立を前提に部隊運用に関する内部資料を作成したこともあった。大臣だけでなく、制服組トップがこれでは、組織に「緩み」が広がっているように映る。そんな懸念も拭い切れない。
今回の暴言を個人の問題として片付けず、組織全体を再点検するきっかけにすべきである。おごりや緩みを正さないと、国民の自衛隊への信頼が一層揺らぐことになりかねない。
(2018年4月23日朝刊掲載)