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社説・コラム

社説 自民党の9条改憲案 自衛隊明記 必要なのか

 自民党の憲法改正推進本部が、9条の改憲案の方向性を決めた。戦争放棄や戦力不保持を維持しつつ、自衛隊を明記する「9条の2」を新設する内容である。参院選「合区」解消など四つの改憲項目に含めて、あすの党大会で報告するという。

 だが、本当に9条を変える必要性や緊急性があるのだろうか。政府は、現行憲法でも自衛隊を「合憲」と解釈してきた。さらに、森友学園を巡る文書改ざんで政権不信が高まり、公明党や改憲に前向きな野党にも冷ややかな空気が広がっている。そんな中での強引な取りまとめには首をかしげざるを得ない。

 党総裁の安倍晋三首相は、9条への自衛隊明記に並々ならぬ思い入れがある。自衛隊の「違憲」論争に決着をつけたいと考えているようだが、事はそう簡単ではない。自衛隊を明記しても、多くの憲法学者が指摘しているように、自衛隊は「戦力」でないとする政府の説明に正当性が与えられるわけではない。戦力の不保持をうたう2項との整合性は取れないままだ。

 想定される条文案には「必要な自衛の措置をとることを妨げず」との文言がある。必要な自衛の措置、とは何を示すのか。曖昧な表現からは、後に作られる法律などによって自衛隊の任務や権限、活動範囲が際限なく広がる懸念がやはり拭えない。

 前例がある。過去に安倍政権は、歴代の政権が踏襲してきた集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈を変え、限定的に可能にした。今回の条文案も解釈の余地をなるべく残し、将来的に拡大するつもりなのでは、と疑われても仕方なかろう。

 さらに党内の議論の実態は、自衛隊の在り方という本質的なテーマに正面から向き合っただろうか。各議員から100を超す条文案を募り、文言の調整に終始したと言わざるを得ない。

 党大会での報告という当初の予定通りに突き進んだのは、安倍首相の求心力を維持するためとの見方もある。「党内議論を深める」というこれまでの言葉は、どこに行ったのだろう。

 党総務会でも、9条改憲の集約にもっと時間をかけるよう求める意見や注文が相次いでいた。国の最高法規である憲法の議論を、首相の威信と引き換えにすることは許されない。

 最近の防衛政策の動向にも気がかりな側面がある。空自戦闘機への巡航ミサイルの搭載や海自護衛艦の「空母化」構想、陸自の部隊運用を一元的に担う陸上総隊や水陸機動団の新設…。北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍拡などを背景に、専守防衛の枠を超えかねない動きが続いている。専門家が「他国軍と共同作戦ができる『戦える軍隊』にしようとしている」と警戒するのもうなずける。

 安倍首相は昨年5月、改正憲法の2020年施行を目指すと表明した。逆算すると、今年中の国会発議、19年中の国民投票というスケジュール案が浮かび上がる。ただ、日程ありきで進めても、他党の協力も国民の賛同も到底得られまい。

 共同通信社が17、18両日に実施した全国電話世論調査では、自衛隊を明記する9条改憲案に反対が47%で、賛成の39%を上回っている。安倍首相は、自らが目指す改憲案に理解が広がっていない現実を受け止め、立ち止まるべきである。

(2018年3月24日朝刊掲載)

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