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「歴史的な転換点」 伊方差し止め 被爆者ら喜び沸く

 「歴史的な転換点」。東京電力福島第1原発事故後に再稼働した原発の運転に司法が待ったをかけた。四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを命じた13日の広島高裁決定。再稼働した原発を高裁が止める全国初の決定に、被爆地ヒロシマの申立人や支援者たちは喜びに沸いた。(小笠原芳、新山京子)

 「勝った。瀬戸内海が守られます」。午後1時半すぎ、決定文を手にした弁護団長の河合弘之弁護士(73)が裁判所から駆け出した。原告は「被爆地ヒロシマ原発を止める」との垂れ幕を掲げ、集まった支援者約100人と拍手で喜びを分かち合った。申立人の一人で被爆3世の会社員綱崎健太さん(37)=中区=は「無差別な放射線被曝(ひばく)を終わらせる一歩」と声を上げた。

 決定後に開かれた記者会見では、申立人や弁護団のメンバー計9人が登壇。火山の影響の危険性を認めた点について、河合弁護士は「全国各地の原発にも当てはまる」と評価した。弁護団の中野宏典弁護士(39)=山梨県都留市=も「火砕流と火山灰のいずれについても危険性を認めた意義は大きい」とした。一方弁護団は、地震動に対する原発の安全性については事業者の主張を踏襲していると批判した。

 被爆者で、仮処分と並行して広島地裁で争っている訴訟の原告団長堀江壮さん(77)=佐伯区=は「身をもって放射線の影響を知っている被爆者として、放っておくことはできなかった。今日で終わりではないが、次の世代に申し開きできる」と安堵(あんど)していた。

 四国電力の担当者は高裁前で報道陣に囲まれ、厳しい表情を浮かべた。

【解説】安全策 厳しく求める

 伊方原発3号機の運転を差し止めた広島高裁の決定は、ひとたび噴火すれば甚大な被害をもたらす火山への安全対策を厳しく求めた。東京電力福島第1原発事故後、稼働した原発を止める初めての高裁レベルでの司法判断は極めて重い。

 高裁は、申し立てを却下した広島地裁と同様、福島事故後に原子力規制委員会が策定した新規制基準の合理性などを認めながらも将来、活動する可能性がある阿蘇カルデラの影響を重視。火砕流が原発に及ぶ可能性や四電による火山灰の想定の問題に触れ、噴火に伴う事故対策が不十分と判断した。

 また、決定は原発への安全性に関する司法審査の在り方に言及。原発から100キロの距離に暮らし、差し止めを求めた広島市の住民が原発事故に伴う放射線の重大な被害を受けるとした点は、「万に一つの災害」の危険性を社会で共有しようとする姿勢がうかがえる。

 広島地裁で係争中の差し止め訴訟には、被爆者も多く参加する。国や電力会社は、放射線による被害を繰り返してはならないという被爆者の思いを踏まえ、原発の在り方を検討する必要がある。(有岡英俊)

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広島勤務16年 被爆者訴訟も 野々上裁判長

 伊方原発3号機の運転差し止めを命じた広島高裁の野々上友之裁判長(64)=写真=は任官36年のベテラン。うち16年は広島地裁・高裁の判事を務め、数々の民事訴訟を担当してきた。今月下旬で定年退官する。

 今回の即時抗告審では、原発の安全性について四電側と住民側に繰り返し質問。住民側の弁護団は「国と四電側の言い分をうのみにせず、踏み込んで説明を求めるなど審理は充実していた」と評価する。

 岡山県出身。1981年に判事補となり、大阪地裁部総括判事や岡山地裁所長などを歴任した。

 広島地裁部総括判事だった2009年3月、被爆者による原爆症の認定申請を却下した国の責任を認め、国家賠償を命じた。同月には、原爆投下直後に被爆者の救護、看護のため広島市内の救護所などに滞在した「三号被爆者」の被爆者健康手帳交付申請の却下処分を巡る訴訟で広島市の処分を違法とし、原告7人全員を被爆者と認めた。

(2017年12月14日朝刊掲載)

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