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イワクニ 地域と米軍基地 艦載機飛来 <4> 山地の集落 事故を警戒

低空飛行 学校近くでも

 11月27日夜、島根県との県境にある広島県北広島町八幡地区の集会所。住民の寄り合いの話題は、翌日から本格化する米軍岩国基地(岩国市)への空母艦載機の移転に集中した。「低空飛行が今以上に増えるんじゃないか」「人がおらん海の方でやってくれればええのに」。集まった15人は口々に不安を訴えた。

 八幡地区で米軍機の低空飛行訓練が目立ち始めたのは1990年代。山あいを縫うように飛んだり、建物などの目標物に向けて急降下や急上昇を繰り返したり。2016年度の目撃件数は909件と、県全体(1227件)の7割以上を占める。今年10月には、岩国基地所属の海兵隊機による火炎弾「フレア」の放出訓練が目撃された。

 栗栖保英さん(67)=北広島町西八幡=は6月、自宅近くで戦闘機に出くわした。山の向こうから突然現れ、自分の方に向かって急降下する際にパイロットが見えた、と証言する。「狙われているかのような怖さは、経験せんと分からん」

 八幡地区に低空飛行訓練が集中するのは、西中国山地を覆う米軍訓練空域「エリア567」があるからだ。本来は自衛隊の訓練空域。米軍は、自衛隊に同空域を使う訓練日を事前に通告、調整した上で使っている。だが国は、調整内容を「米軍の運用に関する情報」として自治体に知らせない。住民の頭上で、米軍の都合次第で訓練が繰り返されているのが実態だ。

 岩国に移転する米海軍の艦載機が、これまでの海兵隊機と同様に中国山地で訓練するかは現時点で分からない。国は16年11月、山陰沖と四国沖の2カ所に艦載機の訓練可能空域を新設。しかし、在日米海軍司令部(神奈川県横須賀市)は、中国新聞の取材に対し「艦載機の訓練空域については答えていない」とする。

 訓練には事故のリスクが付きまとう。岩国基地所属機では昨年12月、FA18ホーネット戦闘攻撃機が高知県沖に墜落。11月22日には、同基地に移転予定の艦載機のC2輸送機が東京・沖ノ鳥島沖で墜落し、搭乗員3人が行方不明となっている。

 相次ぐ事故に自治体は警戒を強める。八幡地区から北東に約30キロ離れた江津市桜江町。4月10日、桜江中の入学式のさなか、近くで米軍機が急降下と急上昇を繰り返した。約30分間、「体育館内でもびりびりと振動を感じた」(出席者)ほどだった。

 一帯には小学校と保育園もあり、平日の日中は地域の子ども約300人が過ごす。「あの場所には桜江の未来の全てが詰まっているのに」。町桜江支所で低空飛行の記録を担当する梅木茂雄総括主任は「万が一」を恐れる。

 島根県内では、江津市や浜田市など県西部5市町でつくる米軍機騒音等対策協議会や県が低空飛行の中止を繰り返し訴えてきた。一方、近年の目撃情報は減少傾向にある。

 「減っているからといって事故のリスクや騒音被害はなくなっていない」。同県邑南町で30年以上、米軍機を監視してきた井上義信さん(78)は語気を強める。「住民が不安に思う低空飛行訓練が、そもそも米国本土で許されるのか。異様な状況であることを見過ごしてはいけない」(明知隼二)

在日米軍の低空飛行訓練
 敵地でレーダーに捕捉されないよう低高度で山間地などを飛ぶ訓練。日米地位協定に基づき、米軍は航空法など大半の国内法令の適用を除外されている。しかし、訓練への反対運動が起きたことなどから日本政府と米軍は1999年、「訓練は航空法と同じ高度規制(市街地300メートル、その他150メートル)を適用」「学校や病院などの建物に妥当な配慮を払う」などの日米合意を結んだ。だが現在も訓練に対する住民の苦情が各地で相次いでいる。

(2017年12月2日朝刊掲載)

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