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連載・特集

イワクニ 地域と米軍基地 艦載機飛来 <3> ごう音拡大 生活に影

理解や不安 あきらめも

 「ゴォー」。11月29日午前10時すぎ、ごう音が約20秒間続いた。大竹市の離島、阿多田島。米軍岩国基地(岩国市)の北東約6キロにある人口約280人の島は、基地から飛び立つ米軍機のルート直下にある。音の正体は戦闘機とみられるが、空を見上げても機影は見当たらなかった。

 「今のはレベル2かな」。港に近い阿多田島漁協の事務所で参事の湊修さん(57)がスマートフォンに日時と騒音の程度を入力した。騒音は広島県の資料にある指標を基に5段階で評価し、湊さんが判断する。「2」は上から2番目のうるささで「会話の声やテレビの音が聞こえない」レベルだ。

 「仕事の電話も中断されるし、カープ中継も聞こえなくなる。日本を守るためだから、仕方ないとは思うんだけどね」。湊さんがそう話す間にも、ごう音が響いた。騒音の記録は11月が40回超。10月は59回、9月は100回にも上った。

 岩国基地の滑走路は2010年、周辺の騒音軽減や安全確保を目的に約1キロ沖合へ移設された。島に近くなり「騒音がひどくなった」と訴える住民は多い。国は漁協の建物屋上に騒音測定器を設けているが、市は昨年、住民の「体感騒音」を把握するため湊さんに記録を依頼した。

 11月28日、岩国基地へ、厚木基地(神奈川県)から空母艦載機FA18スーパーホーネット戦闘攻撃機の移転が始まった。来年5月ごろまでとされる移転が完了すれば、既存の海兵隊機を含め、岩国の所属機は約120機へと倍増する。

 阿多田島の騒音はどうなるのか。防衛省が今年1月に示した騒音予測図では移転後、うるささ指数(W値)75の区域が拡大。島のほぼ全域を占めるようになる。75以上は、国に損害賠償を命じる司法判断が定着している値だ。

 「夜のごう音で、ようやく寝かしつけた子どもが目を覚ますこともある。戦闘機がこれ以上に増えたら…」。3人の子どもを育てる主婦谷文香さん(31)は、島への影響を案じた。

 一方、岩国基地から南に約20キロ離れた山口県周防大島町。防衛省の予測図では、島の一部にW値70の区域が広がった。

 島の北西部にある三蒲地区上空は、今も米軍機が頻繁に通過する。今年4月から11月15日までに70以上を計測したのは26日。80以上も1日あった。「うるさくてうるさくて。石が当たるなら投げてやりたい」。隣接する椋野地区に住む主婦尼川節子さん(68)は、うんざりした表情で話した。

 阿多田島のある大竹市、周防大島町はともに艦載機移転を容認し、見返りに国から米軍再編交付金を受ける。それぞれ、高齢者たちへのフェリー無料券配布、中学生までの医療費無料化といった生活に直結した施策に充てている。高齢化が進む島にとっては大きな支えだ。二つの島には、移転への理解や不安、あきらめが交錯する。

 周防大島への移住者を支援している町民によると、これまでに騒音を理由に島を離れた移住者がいたという。「基地の負担はさまざまな地域で分け合うべきだと思う。でも、我慢できなくなれば引っ越すかも」。3年前、島の暮らしが気に入り東京から移り住んだ30代の男性は漏らした。(久保田剛、余村泰樹)

うるささ指数(W値)
 航空機騒音の評価指標の一つ。騒音が続く時間や回数、時間帯などを考慮して算出し、数値が大きいほど騒音がひどいことを表す。昼間より生活への影響が大きい夜間の騒音を重視して評価する。国は環境基準で、住宅専用地域では70以下と定めている。70は、地下鉄の車内の音に相当する80デシベルの騒音が日中に1日50回あったときのうるささに相当する。

(2017年12月1日朝刊掲載)

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