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社説・コラム

『想』 小宮山道夫 過ちを繰り返さぬよう

 近ごろ身にしみて思うのは縁のありがたみだ。天の配剤とも言うべきか、不思議な巡り合わせに感じ入る場面が増えた。

 このたび、専門とする日本教育史の立場から留学生に日本の歴史文化を教えるようにと指名され、国際交流担当の職場に異動した。必然的に平和学習にも関わり、包括協定を結んだ原爆資料館と連携を密にしている。

 郷里静岡を離れ広島人となって28年。静岡といっても焼津港から遠い富士の麓の産だが、第五福竜丸には詳しいつもりだ。就職後は専門外ながらセミパラチンスク核実験場や、チェルノブイリ原発事故の被曝者(ひばくしゃ)調査に加わる機会を得た。それも福島原発事故以前のことで、地道に第一線で活躍している放射線物理学や、医学、社会学の専門家の人々に同行して。そしてその縁で福島原発事故1年後に規制区域の線量調査も体験した。

 それらの学際的な活動は、前職場の広島大文書館という、記録と現場感覚とを最も大切にするアーカイブズに支えられて実現した。同館には原爆被害の実態解明や平和への取り組みに関わる資料を集めた平和学術文庫がある。平岡敬元広島市長をはじめ中国新聞記者らの取材資料など、無二の財産が多く残る。文庫には広島大前身校時代の留学生の資料もある。不幸にして戦時下のことで、被爆死した学生もいるが、留学生たちに感動を与え、心の交流を築いた日本人が存在していた証しが残されているのが救いだ。

 昨秋から中国人留学生を指導学生に受け入れた。広島大が昨年創設した森戸高等教育学院の学生の一人だ。広大大学院への進学を望む優秀な学部生を1年間受け入れる制度で、このたび第1期生26人が巣立った。7月には別のプログラムの短期留学生64人が、学生や地域との交流を重ねつつ勉強した。

 彼らが日本にどのような印象と記憶を持って帰国するかが最大の関心事だ。さまざまな縁で生かされている私にこそ可能な、事実と記録に基づいた知識を教え、心の交流に根ざした広島ならではの経験ができるよう尽力したい。(広島大准教授)

(2017年8月3日セレクト掲載)

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