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変わる岩国基地 「艦載機」容認 <3> 混迷 移転へ 国がアメとムチ

 「在日米軍再編を巡る日米協議で、米側が海軍厚木基地(神奈川県)を海兵隊岩国基地(岩国市)に移転する案を提示」。2004年7月、岩国市民に衝撃的なニュースが駆け巡った。住宅密集地の真ん中にある厚木基地周辺では米空母艦載機の騒音被害が深刻なため、滑走路の沖合移設工事が進む岩国基地へ―。13年後の今につながる、そんなシナリオだった。

住民ら反対運動

 市は「住民生活の根本を揺るがす問題で到底容認できない」と強く反発。市議会は05年6月、全会一致で移転反対を決議した。旧市全域の22地区の自治会連合会でつくる市自治会連合会も7月、基地機能の強化反対を全会一致で決議。9月には他団体と連携し、6万人分の署名を集めた。

 しかし10月、日米両政府は艦載機の岩国移転を盛り込んだ在日米軍再編の中間報告に合意する。「国防を巡る国の方針は曲げられない。別の道も考えなければ」。国の強硬姿勢に、市議の中から「条件闘争」の声が出始めた。

 こうした動きに対し、移転案の「白紙撤回」を求め続けた当時の市長、井原勝介氏は06年2月、受け入れの是非を問う住民投票を発議。投票率が50%未満の場合は不成立となるため、移転容認派が棄権を呼び掛ける運動も起きた。

 迎えた3月の住民投票。投票率は58・68%に達し、成立要件をクリアした。結果は反対4万3433票、賛成5369票。「移転ノー」が投票総数の87・42%を占める圧倒的多数となり、投票資格者8万4659人に対して51・30%だった。井原氏は合併に伴う翌月の市長選でも、移転案について「国との現実的な協議」を主張して政府首脳たちの応援を受けた対立候補を大差で破った。

 それでも国の姿勢は変わらなかった。5月、在日米軍再編の最終報告に米側と合意。移転を拒み続ける市に対し、市新庁舎の建設補助金35億円を凍結し、米軍再編交付金の対象からも外した。なりふり構わぬ国の手法は、米軍再編を巡る「アメとムチ」の象徴として全国に波紋を広げた。

市長と議会対立

 市長と市議会の亀裂は深まっていく。市議会は艦載機移転で事実上の移転容認となる「現実的対応」を市長に求める決議案を賛成多数で可決。市庁舎建設費に合併特例債などを充てる予算案を4度にわたって否決し、事実上の市長不信任を突き付けた。

 追い詰められた井原氏は07年12月に市長を辞し、08年2月の出直し市長選に打って出る。この決断が、艦載機移転問題を巡る市の方向性を大きく転換することになった。(松本恭治)

【米空母艦載機の岩国移転に絡む2004~07年の主な動き】

2004年
   7月 米海軍厚木基地の米海兵隊岩国基地への移転案が報道で浮上

  05年
   6月 岩国市議会が移転反対を全会一致で決議

   7月 市自治会連合会が基地機能強化反対を全会一致で決議

  10月日米両政府が、艦載機の岩国移転を含む在日米軍再編の中間報告に合      意

  06年
   2月 井原勝介市長が移転受け入れの是非を問う住民投票を発議

   3月 住民投票で87%が移転に反対。井原市長が移転計画の撤回を国に要      請

   4月 合併後の市長選で井原氏が当選

   5月 日米が在日米軍再編に最終合意

  12月 07年度予算の財務省原案で、市庁舎建設補助金を見送り

  07年
   3月 市議会が艦載機移転で「現実的な対応」を市長に求める決議案を可      決。市庁舎建設費に合併特例債を充てる07年度当初予算案は否決

   5月 在日米軍再編への協力度合いに応じて地方自治体に交付金を支給する      「米軍再編推進法」が成立

  10月 防衛省が再編交付金の交付対象の自治体を指定。岩国市は対象外

  11月 市議会が市庁舎建設費に合併特例債などを充てる予算案を4度目の否      決

  12月 井原市長が辞職し、出直し市長選へ。市議会は同予算案を修正し可決

(2017年6月29日朝刊掲載)

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