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社説・コラム

天風録 「萎縮効果」

 たまり場の公民館に頼まれ、俳句サークルが互選の句を公民館だよりに寄せていた。3年前のある日、いつものように届けた句に館側は打って変わってけちをつける。「これは載せられない」と▲<梅雨空に「九条守れ」の女性デモ>がその句だ。「世論を二分する問題だから」が拒んだ理由だった。集団的自衛権行使の容認に政府が傾く頃で「露骨だな」とあきれた覚えがある。詠んだ70代女性がさいたま市を訴えた裁判が今、進行中らしい▲泣き寝入りすれば、表現の自由が萎縮すると案じたという。句歴80年の金子兜太(とうた)さんは戦前、治安維持法で弾圧に遭う俳人を目の当たりにした。名もない人を追い込む今回の方が「問題は根深い」と地元紙で断じている▲治安維持法になぞらえられた「共謀罪」法案がきのう衆院を通過した。論点が生煮えのまま、うのみを無理強いされては市民の側もたまったものではない▲思えば、「はだしのゲン」が学校図書館から締め出された頃からだろうか。公共施設が表現の自由に口出しする空気が強まっている。どれも忖度(そんたく)なのか。梅雨空のようにもやもやが覆う。「萎縮したら、相手の思うつぼ」は、対テロだけの教訓ではない。

(2017年5月24日朝刊掲載)

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