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岩国、騒音拡大の恐れ 7月にも艦載機移転 不安解消へ情報公開を

 米海軍厚木基地(神奈川県)から米海兵隊岩国基地(岩国市)への空母艦載機61機の移転開始時期として国が示した7月が間近に迫った。国は岩国基地では原則として陸上空母離着陸訓練(FCLP)と事前集中訓練はしないとしている。しかし、移転条件の一つである「恒常的なFCLP施設の建設」はいまだに実現していない。このままでは「通常訓練」と称する離着陸の増加で騒音が拡大する恐れがある。(編集委員・山本浩司)

 FCLPと、それに先立つ事前集中訓練は艦載機パイロットにとって最も重要な訓練だ。インターネット上に公開されている在日米海軍の広報映像によると「約100人のパイロットがFCLPで計3千回から6千回のタッチ・アンド・ゴーを行う」という。通常の離着陸と比べ、回数も多い上、大きな騒音を伴う。

 現在、厚木基地の艦載機はFCLPを硫黄島で実施している。一方の事前集中訓練は厚木などの基地で実施しているとみられる。

 国は岩国への移転に伴い硫黄島以外の恒常的なFCLP施設の建設を約束。9年前、岩国市が国に要望した安心・安全対策43項目への回答でもFCLPと事前集中訓練は岩国基地で実施しないと明記されている。

 恒常的な施設として、国は鹿児島県の馬毛島(西之表市)を購入する方針を示しているが難航している。暫定措置として米軍は引き続き硫黄島をFCLPに使う計画だ。

 その上で心配なのが、FCLPと事前集中訓練に先立つ動きだ。在日米海軍の広報映像は「経験の少ないパイロットはさらに飛行訓練をこなす」とする。移転後の岩国基地で、米軍が通常訓練と称して、着艦訓練に近い離着陸を繰り返す恐れは拭えない。廿日市市の市民団体「岩国基地の拡張・強化に反対する県西部住民の会」の坂本千尋事務局長は「米軍が通常訓練と言えば、事前の通告は必要なく、中止を求めることもできない」と懸念する。

 その場合、騒音はどうなるだろうか。防衛省が馬毛島でのFCLPの騒音の広がりを示した図がある。このうち岩国基地の離着陸方向が合致する部分の図を同じ縮尺で岩国基地に重ねてみると「夜間の飛行経路」の中に宮島がすっぽりと入った(図1)。防音工事の範囲の認定などに使われる「うるささ指数」とは別の「航空機からの距離と騒音レベル」でみた70デシベルのコンター(騒音範囲)も大竹市や廿日市市に達した。

 洋上の馬毛島と岩国基地は地形も異なり、飛行パターンも違うことなど、岩国で着艦訓練があったとしても、そのまま馬毛島の図は当てはまらないだろう。しかし、移転後の通常の離着陸で予想される騒音範囲の図(図2)よりも北側に範囲が広がるのは確実だ。

 もちろん、着艦訓練に近い訓練が岩国で実施されるとは限らないし、山口県や岩国市もこうした訓練が行われないよう強く求めている。

 それでも懸念が拭えないのは、情報公開が不足しているからだ。例えば、FCLPとセットの事前集中訓練にも疑問が残る。一連の訓練は空母出港に合わせて終了する必要があるが、限られたスケジュールの中で、この訓練をどこで実施するのか明確でない。

 もし厚木基地で実施するのならば、周辺住民にとって艦載機移転による騒音軽減効果は損なわれるし、夜間訓練後に航空機が岩国基地に戻ることになれば、今度は岩国周辺が深夜の騒音に見舞われることになる。

 坂本事務局長は「地元や飛行経路の下の自治体は第1陣の移転が始まった時点で、艦載機特有の騒音や飛行実態の測定・確認を始める必要がある」と提言している。

陸上空母離着陸訓練(FCLP)と事前集中訓練
 FCLPは空母艦載機のパイロットにとって最も重要な訓練。滑走路を空母の甲板に見立てて着陸態勢の機体の主脚が接地した直後に再び離陸する「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返す。パイロットから選ばれた着艦信号士官(LSO)による技量審査が行われ、基準に達しないと次の着艦資格取得訓練(CQ)に進めない。事前集中訓練はFCLPを前に、パイロットが、着艦の技量を取り戻すため同時に「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返すことを指す。

(2017年5月12日セレクト掲載)

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