×

連載・特集

[つなぐ] サルサバンドリーダー アルバル・カスティージョさん=エルサルバドル出身

平和願う陽気なリズム

 大きな体を揺らしながら、電子ピアノで軽快なラテン音楽を奏でる。「お好み焼き」「広島じゃけん」。スペイン語の歌詞の合間に広島弁も飛び出す。中米エルサルバドル出身の音楽家、アルバル・カスティージョさん(57)=広島市中区=が作曲し、演奏する歌「お好み焼き」である。

 妻の実家がある広島市に移り住んだ2006年、仲間と一緒にサルサバンド「エル・コンボ・デ・ラ・パス」を結成した。バンド名を考えたのもカスティージョさん。スペイン語で平和を意味する「Paz(パス)」を入れたのは広島から世界へ平和を広めたいという思いからだ。

 毎月5回程度、主に県内のライブハウスやイベントで演奏している。バンド結成から約10年。地域にすっかり溶け込み、病院や介護施設、祭りなどにも呼ばれるまでに。この間、オリジナルの曲は約100曲。路面電車やお好み焼き、親友など身近にある大切なものを題材にした。

 代表作という「ヒロシマ」は被爆の惨禍を乗り越え、美しい街に生まれ変わった広島で感じたことをラテンのリズムに乗せた。「多くの者が亡くなり、そして生き延びた」「僕の心は平和で満たされる」。故郷エルサルバドルの復興を願う気持ちも重ねる。

 9歳だった1969年、隣国のホンジュラスと武力衝突を繰り広げた。さらにエルサルバドルでは内戦が激化、政府軍とゲリラ軍との戦闘で79年以降、7万5千人以上が命を落としたとされる。カスティージョさんの親友も犠牲になった。

 エルサルバドル人同士が憎み合い、殺し合う。悲劇が日常化する中で、こう考えるようになったという。「戦争に駆り出されるのはいつも若い人。身を守るためには武力しかない」と。しかし平和都市広島に来て考えを改めた。

 青年海外協力隊でエルサルバドルに赴いた妻と出会い、一人娘の音美(ねみ)さん(15)が生まれた。「祖国ではいつ殺されていてもおかしくなかった。生き延び、結婚して娘に恵まれたことも奇跡だ」。最愛の子の名は命の尊さを胸に刻んでほしいと中米の先住民の言葉で「生きる」を意味する「ネミ」から取ったという。

 異国で暮らす今は「音楽が生きる糧であり全てだ」と言い切る。もともと教会で賛美歌を歌うのが大好きな少年だった。戦時下の生活で心の支えになったのが音楽。10代でギターを弾き始め、ピアノも習い、今につながった。

 現在、バンドは日本人も含め11人で構成する。打楽器を担当するブラジル人のマルセロ・ピエトラロイアさん(55)=呉市=はリーダーについて「常にポジティブで、いつも周囲を楽しませる人」。トランペット担当の森戸拡義さん(43)=安佐南区=は「広島発のサルサバンドならではのメッセージを」と意気込む。

 多国籍の仲間と共に、これからも陽気に「平和」を歌い続ける。(桑島美帆)

(2017年3月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ