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社説・コラム

社説 「トランプ」国会審議 浮かれ過ぎが気掛かり

 友好ムードだった会談の結果を安倍晋三首相が誇示したい気持ちは、分からないでもない。ただ浮かれ過ぎは禁物だろう。きのう衆院予算委員会でトランプ米大統領との首脳会談に関する集中審議が行われたが、手柄話のようにアピールする姿に、少し違和感を抱いた。

 沖縄県・尖閣諸島の対日防衛義務など安全保障の日米同盟を再確認したことが政権にとって安心材料となったのは確かだ。共同通信の世論調査でも7割が会談を評価した。

 とはいえ相手は就任後、さまざまに物議を醸すトランプ氏である。首相が「ルールを守り、素直に話ができる人」と持ち上げるのは早計ではないか。首相の答弁を聞く限りでは、少なくとも通商交渉は緒に就いたばかりで過大な評価はできない。

 選挙中にあれほど貿易不均衡だとたたいたトランプ氏だが、首相によると会談の場では自動車は話題に上らず、持ち掛けても反応がなかったという。米国経済への貢献をようやく理解してくれたのならまだいい。しかし日本側の思惑や出方を探るための沈黙だった可能性もあるだろう。その雰囲気に首相も便乗した感が否めない。

 例えば、為替を巡る攻防だ。トランプ氏は直前まで「円安誘導」と日本を批判していたのに矛を収めた格好になる。一方で会談後の会見で為替問題に関与する意向を強くにじませた。

 経済分野の強硬さが鳴りを潜めたのはある意味、日本にとって肩透かしだった。おそらくは経済閣僚の議会承認が間に合わなかった事情もあるのかもしれない。麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領を両トップとする閣僚級の「経済対話」は今後、激しさを増すことは覚悟せねばなるまい。

 そこで気掛かりは首相が「素晴らしいビジネスマン」と褒めそやす新大統領に足元を見られかねないことだ。例えば米国の離脱で発効できなくなった環太平洋連携協定(TPP)に代わる新たな枠組みである。

 共同声明の作成段階で、米側が日米自由貿易協定(FTA)の締結を目指すとの文言を入れるよう要求していたことが分かった。衆院予算委で首相が「2国間FTAを恐れているわけではない。日本の国益になるならいいし、国益にならないなら進めない」と述べたのは、こうした伏線があってのことか。

 態度を明確にしたわけではない。ただ最後まで世論が定まらなかったTPPを思えば拙速は慎まねばならない。何をもって「国益」とするかなど十分に時間をかけ国民に説明すべきだ。

 何も焦る必要はない。トランプ政権は発足からまだ3週間で政策が定まっていないとみられる。きのう大統領側近で安全保障を担当するフリン大統領補佐官が辞任するなど政権の混乱はさらに続きそうだ。

 首相は「トランプ氏と緊密な関係をしっかりつくり、世界に示すしか選択肢がない」と訴える。本当にそうか。イスラム圏7カ国からの入国を禁じた大統領令に首相がコメントを控え続けるのはおかしい。わが国でも世論調査で7割超が「理解できない」としているからだ。

 米国第一主義を掲げるトランプ氏は「ディール(取引)」を口癖とする。その真意を引き続き見極めなければならない。

(2017年2月15日朝刊掲載)

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