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社説・コラム

社説 「同盟」の行方 防衛強化に傾かないか

 安倍晋三首相はトランプ米大統領とホワイトハウスで初めて会談し、同盟強化の決意を盛り込んだ共同声明を発表した。沖縄県・尖閣諸島について、米国の防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であると、あらためて確認したことは日本政府の思惑通りだろう。安倍氏はほっとしていよう。

 日米同盟につけいる隙がないことを中国に示すべく、日本政府は首脳会談に当たって尖閣への安保条約5条適用の再確認を極めて重視してきた。オバマ前政権が中国との関係を重んじ、5条適用を表明するまでに時間がかかったこともあろう。

 しかし、焦点の新たな通商枠組みや、自動車貿易の不均衡是正については新設する協議に委ねた形で、首相が目指す相互利益の関係を構築できるかどうかは見通せない。それだけに、同盟強化が通商交渉の取引に使われる懸念も打ち消せまい。

 日本は防衛力を強化し、日米同盟の抑止力や対処力の向上に貢献してきた。2018年度まで5年間の中期防衛力整備計画(中期防)は対象経費に関し年平均0・8%の増加を見込んでいる。このペースがさらに加速し、防衛費が「聖域化」するならば違和感を禁じ得ない。

 トランプ氏は今回「日米同盟はアジア太平洋地域安定の礎石だ」と強調し、尖閣を念頭に「日本の施政下にある全ての領域の安全保障に責任を持つ」と明言した。在日米軍の受け入れにも謝意を示し、会談では在日米軍駐留経費の負担増問題は議題にならなかったという。

 だが、トランプ氏は選挙戦では駐留経費の負担増を求めてきた人物である。このまま旗を降ろすとも思えない。両首脳は外務・防衛担当閣僚に対し、日米同盟をさらに強化するための方策を特定するため、安全保障協議委員会(2プラス2)を開催するよう指示した。この協議を注視しなければなるまい。

 両首脳は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設の推進についても申し合わせた。共同声明では「普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策である」としているが、普天間の運用停止にめどを示さず、基地負担の重圧を全く省みない言い回しとしかいいようがない。

 県民の求める真の負担軽減や日米地位協定の抜本改正から、目を背けるべきではない。

 一方、安倍氏はトランプ氏が発した入国禁止の大統領令について「内政問題」として首脳会談では直接言及しなかった。「基本的価値の共有」を外交の基本方針としてきたのに、自由や人権を強調すると大統領令との矛盾が生じることになるからだろうが、納得できない。

 入国禁止の大統領令は、米国内だけでなく国際的な批判と反発を招いている。しかしトランプ氏は差し止めを求めた判事に対し、「何か起きたら彼の責任にしろ」などと個人攻撃を繰り返している。民主主義の根幹であるべき三権分立を全く理解しない言動というほかない。

 米国は世界最大の軍事力を持つ超大国である。そのリーダーが国内雇用を奪われたというような被害者意識だけに凝り固まっていては極めて危険だ。

 日米外交に民主主義の物差しを当て、取引(ディール)に偏しないことを強く求める。

(2017年2月12日朝刊掲載)

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