×

社説・コラム

社説 空母艦載機と岩国 重い判断 迫られている

 在日米軍再編の柱の一つとして浮上して12年。米海兵隊岩国基地への空母艦載機部隊の移転問題が、ことし最大のヤマ場を迎える。岩国市や山口県に対して、国が神奈川県の厚木基地からの具体的な移転スケジュールをついに示したからだ。

 当初予定の2014年から遅れたものの、根強い反対が残る中で着々と準備は進んできた。市内の愛宕山では米軍住宅や関連施設の建設が進む。基地の軍民共用化による民間便も定着している。日米両政府からすれば既定路線にほかなるまい。

 説明によると、早ければ7月以降にE2D早期警戒機5機をまず配備し、それに先立った訓練を来月から岩国で行う。続いて厚木周辺で激しい騒音をもたらしてきたFA18スーパーホーネット4部隊のうち半分が11月ごろ移転し、来年5月ごろには残る移転を終えるという。全体で61機、軍人・軍属と家族約3800人も移る見通しだ。

 海兵隊の部隊と合わせて約120機と倍増し、沖縄・嘉手納基地を上回る規模となる。どう考えても基地機能の大幅な強化であり、基地の街にとって大きな岐路となろう。その現実と向き合う地域の複雑な思いを国や米軍はどう受け止めているか。

 住民からすれば未解決の問題は山積みと言わざるを得ない。

 象徴的なのが騒音だ。国の説明で示された最新の騒音予測図は従来のものと比べ、W値(うるささ指数)75以上のエリアが3割増えていた。過去の判例では違法状態として国の損害賠償の対象となる騒音である。さらにW値70以上では周防大島や宮島、能美島の方向に拡大した。驚いた人も多いのではないか。

 岩国基地は7年前の滑走路の沖合移設に伴い、市街地の騒音は一定に軽減された。艦載機部隊を移しても、予想が少々変わっても昔よりはまし―。それが国の一貫した論法といえる。しかし現状に対してどうなるかはろくに説明がないままだ。

 艦載機の訓練も同じだろう。厚木でいえば戦地の空爆を想定した激しい対地攻撃訓練を、内陸の群馬県で繰り返してきた経緯がある。山陰沖や四国沖に訓練空域を設けるというが、ただでさえ米軍機の目撃が絶えない中国山地も含め、陸地部の騒音や事故のリスクが急増する可能性もあるはずだ。このところ米軍機の重大事故が相次ぐだけになおさら心配になってくる。

 岩国市は現市長の下で米軍再編に協力する姿勢に転じた。ただ形の上では艦載機移転を受け入れたわけではない。治安や騒音など43項目の安心安全対策を条件として求めてきたが、全ての実現は見通せないままだ。

 きのう開かれた市議会全員協議会では懸念も出たが、国側は市内のバイパス延伸や小中学校給食の無料化など地元が求める支援に応じる意向を示した。受け入れ表明と引き換えにした「条件闘争」の動きは、さらに強まっていくかもしれない。

 市は県とともに疑問点は国にただすという。艦載機移転がもたらす負の側面を直視し、厳しく物申す姿勢が最後まで求められるのではないか。いったん受け入れてしまえば何が起きても後の祭りになりかねない。

 遠からず市と県が迫られる判断は県境を越えて影響を及ぼすことにもなろう。その政治責任の重さを自覚してほしい。

(2017年1月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ