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社説・コラム

社説 トランプ政権の排外政策 不測の事態 招く恐れも

 早くも「地金」が出たのか。トランプ米大統領が、不法移民への規制を強化する大統領令2件に署名した。メキシコとの国境沿いに「壁」を建設するよう連邦政府に指示したほか、不法移民に寛容なニューヨークなど「サンクチュアリ・シティー(聖域都市)」への連邦資金の交付カットなども命じた。

 就任から1週間。記録的な低支持率に、いらだっているようにも見えよう。不法移民やシリアなどからの難民を米国を脅かす「敵」と見立てる―。そんな手法で支持者の歓心を買うのなら、多様性を理念としてきた民主国家のリーダーの資格があるとはいえまい。

 「壁」の建設はトランプ氏が選挙戦の時から「国境を取り戻す」「富を取り戻す」として、強く訴えていた重要な公約である。しかし経済的な締め付けにつながる上に、建設費の負担まで押し付ける政策にメキシコ国民が憤るのは当然だろう。

 しかも、メキシコとの談判に時間がかかるとみると、米国の予算で「壁」の建設に取り掛かるとも言いだすから支離滅裂だ。かえって国家財政を圧迫することになりはしないか。

 異なる民族や人種、あるいは宗教の間に、無用なあつれきを生じさせるような政策は容認できない。今後、署名する大統領令も、その点で見過ごせない。

 その一つが、シリアなど中東からの入国制限だ。シリアやイラン、イラク、リビアなど中東・アフリカの7カ国を挙げて、査証(ビザ)発給を30日間停止し、その間に新たな入国手続きを整備するという。全ての国々からの難民受け入れも停止する可能性がある。

 トランプ氏は選挙中にイスラム教徒の入国禁止を一時主張したが、その後、事実上撤回。テロリストの流入を防ぐために、テロ多発国からの入国時の審査を厳格化すべきだと訴えていた。しかし、移民や難民をテロの温床として危険視する考え方に大きな変化はあるまい。

 実際に欧米で今起きているテロは、自国で生まれ育った者たちによるホームグロウンテロであることが少なくない。国内の格差や貧困などが遠因となるテロや暴力に相対するには、その遠因を断たねばならない。

 入国に関する一連の強硬姿勢が逆に、国際テロ組織などの暴発を誘うことを憂慮する。

 トランプ氏が矢継ぎ早に大統領令を発しているのも懸念すべき事態だ。米国では法案を提起できるのは議会だけだが、その立法手続きを経ないで大統領が直接、連邦政府機関や軍に命令を発することもできる。

 大統領にはそれだけ強い権限がある一方で、取り返しのつかない過ちを犯すことも歴史は教えていよう。太平洋戦争開戦から約2カ月後に、当時のルーズベルト氏が出した大統領令は、日系人の強制収容につながったが、人種差別に基づく誤った措置だったとして、戦後に米国は謝罪と賠償を行っている。

 安倍晋三首相は先日の施政方針演説で「(日米同盟は)外交・安全保障政策の基軸である。これは不変の原則です」と述べた。ならば同盟国の新大統領に、過去の歴史に学び、民主国家の根幹を揺さぶる無用なあつれきは生まないよう、もの申すべきではないか。もはや米国の内政問題とはいえまい。

(2017年1月27日朝刊掲載)

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