天風録 「豹変を求む」
16年11月10日
まるで別人のような慎み深さだった。米国の新大統領に選ばれたトランプ氏の勝利宣言には少し驚いた。早速の過激発言を危ぶんでいたら、「分断の傷を癒やしていく」と殊勝な言いぶりだ▲綸言(りんげん)汗のごとしという東洋の格言はおそらく知るまい。汗と同じく一度口にしたことは取り消せない―。暴言を吐かれた女性や移民たちが負った傷は簡単に癒やせまい。政策に関する見識とともに、超大国のリーダーはさらなる謙虚さが欠かせない▲初代大統領ワシントンは大衆の仲間であることを望んだ。取り巻きは日本でいう「殿下」などと呼ぼうと考えていたが、結局は「ミスター・プレジデント」に決まる。ごく普通の呼び名がいいと▲初のマダム・プレジデントが誕生するに違いない。大方の予想に反して世界中が驚愕(きょうがく)した選挙。米国民にとっても、苦渋の判断だったはずだ。本命もさまざまな批判を抱え、「どちらがましか」の消去法だったからだ▲8年前のオバマ氏は米国社会のチェンジを訴えた。トランプ氏はまず自分の考えを変えるべきだ。日韓に核武装を容認するかのような発言や、メキシコ国境への壁建設。本当に「君子」になったのなら格言通りに豹変(ひょうへん)を。
(2016年11月10日朝刊掲載)
(2016年11月10日朝刊掲載)