連載「グレーゾーン 低線量被曝の影響」
17年7月18日
低線量被曝(ひばく)が、どれほど人体に影響するのか、広島・長崎の経験をもってしても、よく分かっていない。東京電力福島第1原発事故でさらに焦点が当てられた「グレーゾーン」の実態に光を当てる。本連載は2017年の科学ジャーナリスト大賞の受賞作。
◎ニュース◎ 甲状腺がん「数十倍に」 福島の子ども県健康調査 事故影響 意見割れる
◎特集面◎ 甲状腺がん 波紋広がる
東京電力福島第1原発事故を受けた福島県の「県民健康調査」で、対象となる約38万人の子どものうち少なくとも116人の甲状腺がんが確定し、100万人に数人程度とされていた過去の国内の統計に比べ多発している。その原因をめぐり、科学者の間に、早期発見や死に結び付かないがんを診断しているとの見方がある一方、原発事故による被曝の影響を指摘する主張もある。低線量被曝という「グレーゾーン」をめぐり、波紋が広がっている。
【第1部 5年後のフクシマ】
放射線を浴びた量が少しなら人体にどんな影響があるか、科学はまだ、その答えを明確に出していない。福島の原発事故から間もなく5年。目に見えない放射線と今なお向き合わざるを得ないフクシマを歩いた。
<1>止まった町 戻らぬ生活
<2>帰還の選択 新たな苦悩
<3>折り合い 模索する日々
<4>転機迫られる自主避難
<5>除染どこまで 見解に溝
<6>林業再生へ期待と不安
<7>放射線 身近に教え学ぶ
【第2部 フクシマの作業員】
東京電力福島第1原発事故後の作業で、急性骨髄性白血病を発症した北九州市在住の元作業員が2015年、労働災害(労災)と認められた。同原発事故で被曝による労災が認められたのは初めて。累積の被曝線量は19.8ミリシーベルト。白血病の労災認定基準である年5ミリシーベルト以上は満たす一方で、がんのリスクが高まるとされる100ミリシーベルトは大幅に下回り、厚生労働省は「科学的に被ばくと健康影響の因果関係が証明されたものではない」との異例の見解を示した。低線量被曝という「グレーゾーン」は、廃炉に取り組む原発作業員にも影響を及ぼしている。
<上>初の労災認定
<中>未知の現場
<下>健康調査の行方
【第3部 ゴールドスタンダード】
100ミリシーベルト以下の被曝では、発がんなどのリスクが増えるかどうかはっきりしない―。東京電力福島第1原発事故による低線量被曝の議論でよく出てくるフレーズは、国際機関の報告や勧告を踏まえている。その引用元になっているのは、放射線影響研究所(放影研、広島市南区)が被爆者の疫学調査で積み上げたデータと解析だ。「ゴールドスタンダード」。関係者がそう呼ぶ研究成果の輝きと限界をみる。
<1>類例ない被爆者データ
<2>病気との関連 続く追跡
◎関連ニュース◎ 部署超え共同研究 放影研 発がんなど3領域
<3>長時間と一瞬 違い研究
<4>データ公開 拡大望む声
<5>「ピカ」での説明に空白
【第4部 核大国の足元で】
71年前、人類史上初めて原爆を広島と長崎に落とし、核時代の幕を開けた米国。冷戦期には旧ソ連との核軍拡競争を繰り広げ、軍事、民生の両方であらゆる核の技術的進歩を追求すればするほど、多くのヒバクシャを生んだ。至近距離で瞬間的に大量の放射線を浴びた広島と長崎の例とは異なるだけに、被曝と健康被害との因果関係の立証は難しく、救済されないままの人たちもいる。核大国ならでは、ともいえる「低線量被曝」の現状と課題を探る。
<上>風下から
<中>国策の影
<下>調査の限界
【第5部 科学者の模索】
放射線を少し浴びたときの人体への影響は、現代の英知を集めても、はっきりとは分からない。「グレーゾーン」と向き合う科学者の執念と葛藤を追う。
<1>DNA修復の過程追う
<2>無傷の細胞になぜ異常
<3>「効能」研究 時代が翻弄
<4>リスク評価 新たな挑戦
<5>被爆の実態 矛盾に迫る
◎関連特集◎がんリスクとの関わりは
どんなに少ない被曝でも、線量に応じた健康への影響があると仮定し、これ以下なら安全という数値(しきい値)は存在しない―。放射線から身を守る放射線防護の考え方は、この仮定に従って「しきい値なし直線(LNT)モデル」が国際的に採用されている。ただ、実際の影響を巡っては、研究者の間でLNTを科学的な仮説としても支持する意見と、疑問視する意見の双方が根強くある。放射線に、危険と安全の「境界」は存在するのか。議論と研究が続いている。
【第6部 フクシマ再考】
ヨウ素やセシウムなどの放射性物質を大地や海へと広範囲に放出した東京電力福島第1原発事故から5年半。福島県民の健康調査の一環として県が実施している子どもの甲状腺検査で、これまでに計174人が甲状腺がんやがんの疑いと報告された。自然界の異変を調べる研究も蓄積されつつある。低線量被曝の影響は、既に出ているのか、それともこれから表れるのか。科学によるアプローチが続く。
<上>子ども甲状腺検査
<下>動植物の異変
○関連ニュース○ 甲状腺がん確定135人 福島原発事故影響 18歳以下検査 県検討委「放射線 考えにくい」
【第7部 明日に向けて】
放射線、それを生み出した科学とどう向き合うか-。核時代という「パンドラの箱」を開けてしまった人類にとって、避けて通れない課題である。現場を歩き、識者の意見を基に、解決への糸口と、なお残された宿題を探る。
<1>フクシマの被災者㊤
<2>フクシマの被災者㊦
<3>身近な放射線
<4> 残された課題
【「取材を振り返って」】
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本紙の3記者が受賞 科学ジャーナリスト大賞 連載「グレーゾーン 低線量被曝の影響」
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「潮流」リスクに向き合う
「潮流」ガリレオの問い掛け
【茨城県東海村の臨界事故を受けた連載「被曝と人間」(2000年掲載)】
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【第1部 5年後のフクシマ】
放射線を浴びた量が少しなら人体にどんな影響があるか、科学はまだ、その答えを明確に出していない。福島の原発事故から間もなく5年。目に見えない放射線と今なお向き合わざるを得ないフクシマを歩いた。
<1>止まった町 戻らぬ生活
<2>帰還の選択 新たな苦悩
<3>折り合い 模索する日々
<4>転機迫られる自主避難
<5>除染どこまで 見解に溝
<6>林業再生へ期待と不安
<7>放射線 身近に教え学ぶ
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<上>初の労災認定
<中>未知の現場
<下>健康調査の行方
【第3部 ゴールドスタンダード】
100ミリシーベルト以下の被曝では、発がんなどのリスクが増えるかどうかはっきりしない―。東京電力福島第1原発事故による低線量被曝の議論でよく出てくるフレーズは、国際機関の報告や勧告を踏まえている。その引用元になっているのは、放射線影響研究所(放影研、広島市南区)が被爆者の疫学調査で積み上げたデータと解析だ。「ゴールドスタンダード」。関係者がそう呼ぶ研究成果の輝きと限界をみる。
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<4>データ公開 拡大望む声
<5>「ピカ」での説明に空白
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71年前、人類史上初めて原爆を広島と長崎に落とし、核時代の幕を開けた米国。冷戦期には旧ソ連との核軍拡競争を繰り広げ、軍事、民生の両方であらゆる核の技術的進歩を追求すればするほど、多くのヒバクシャを生んだ。至近距離で瞬間的に大量の放射線を浴びた広島と長崎の例とは異なるだけに、被曝と健康被害との因果関係の立証は難しく、救済されないままの人たちもいる。核大国ならでは、ともいえる「低線量被曝」の現状と課題を探る。
<上>風下から
<中>国策の影
<下>調査の限界
【第5部 科学者の模索】
放射線を少し浴びたときの人体への影響は、現代の英知を集めても、はっきりとは分からない。「グレーゾーン」と向き合う科学者の執念と葛藤を追う。
<1>DNA修復の過程追う
<2>無傷の細胞になぜ異常
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【第6部 フクシマ再考】
ヨウ素やセシウムなどの放射性物質を大地や海へと広範囲に放出した東京電力福島第1原発事故から5年半。福島県民の健康調査の一環として県が実施している子どもの甲状腺検査で、これまでに計174人が甲状腺がんやがんの疑いと報告された。自然界の異変を調べる研究も蓄積されつつある。低線量被曝の影響は、既に出ているのか、それともこれから表れるのか。科学によるアプローチが続く。
<上>子ども甲状腺検査
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