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江波暮らし記憶鮮やか 映画「この世界の片隅に」舞台の一つ 94歳大岡さんの聞き書き出版

 1922年から広島市中区の江波地区で暮らし続ける大岡貴美枝さん(94)の半生を聞き書きした本「江波に生きる」が刊行された。戦前の江波が舞台の一つになったアニメ映画「この世界の片隅に」が来月12日に公開されるのに合わせ、市民団体が自費出版。映画で描かれた時代の町の営みや被爆の記憶を伝えている。

 冊子は78ページで、戦前を中心に回顧。父親が漁業をしていた大岡さんは「昔は海に竹を立ててね、それについた海苔(のり)を採ってたの」「私がまだ小さかった頃、川にはカブトガニがいました。本川にも天満川にも」などと思い起こす。

 原爆投下の「あの日」は、今の江波中の辺りに広がっていた陸軍射的場に、多くの遺体が運ばれたと証言。被爆5年後には、洋裁を習っていた縁でファッションショーに参加した思い出を語る。その時の写真は冊子の表紙にあしらわれた。

 大岡さんは、生まれ育った江波から、結婚して呉市に移り住む映画の主人公とほぼ「同年代」。監督の片渕須直さんも大岡さんの証言を聞いて、江波のシーンにカブトガニを加えたという。

 出版したのは、被爆前の広島の街並みの調査に取り組むヒロシマ・フィールドワーク実行委員会。中川幹朗代表(58)=南区=は「大岡さんは記憶豊かで、戦前からの暮らしがよく分かる。映画と一緒に冊子に触れてほしい」とPR。大岡さんは「思い出をまとめてもらい、うれしい。若い人が昔の江波を知るのに少しでも役立てば」と期待する。

 1部800円で、400部作成。実行委Tel082(255)1923。(水川恭輔)

(2016年10月20日朝刊掲載)

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