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連載・特集

[Peaceあすへのバトン] 武田中高教諭 アシュリ・サウザーさん 平和教育で世界に目を

 ことし、核拡散防止条約(NPT)をテーマにした寸劇を生徒と作りました。核兵器を持つ米国やロシア、「核の傘」の下にいる日本などの国を生徒が演じます。国が核を持つことを、生徒が教室に携帯電話を持ち込むことにたとえ、NPTがうまく機能していない様子を表しました。

 「核兵器をなくすべきだ」と繰り返し訴えるだけではなく、生徒に身近な問題に置き換え、具体的に考えてもらうのが目的です。生徒からは「どの国も、ほかの国が核を保有すると批判するのに、米国やロシアには遠慮している」「国連が(安全保障理事会の)常任理事国に任せっきりで役割を果たしていない」などの感想が寄せられました。

 平和教育は、生徒が関心を持って取り組むことが大切です。劇を通して世の中の力関係や、不公平を学べたと思います。

 少年時代、米国が「世界で1番良い国」と信じていました。時代は冷戦。善と悪に、はっきり分かれた世界観を持っていました。

 そこに疑問を抱くきっかけを与えてくれたのは、高校の時の社会の先生です。教室の机が古くてボロボロなのに使い続ける理由は、太平洋戦争中に日系人が収容所で作らされた机だったからでした。先生は「自由を大切にする私たちが他人の自由を奪い取った」ことを「忘れないため」、変えなかったそうです。

 大学時代に行ったヨルダンの難民キャンプでも、不正義を見ました。理由なくパレスチナ人を追いやるイスラエルは米国の味方。頭の中が混乱しました。日本に来て、修学旅行で米軍の普天間基地(沖縄県)を山の上から見た時もショックでした。広い土地を占め、「世界の警察」のはずの米国が日本人にネガティブに見られていたからでした。

 パレスチナ訪問も世界観を大きく変えました。ヨルダン川西岸に行った2度目はパレスチナ人からスパイと疑われ、前回感じた人の義理や人情に穴が開いたように感じました。戦争は人の心まで壊すのです。

 同僚が殺されて無力感に沈んでいた時、今も続けているプロレスを始めました。夢を持ち、絶望から抜け出せます。現地の学生と励み、「師匠」と仰ぐ人のジムに通いました。

 パレスチナとイスラエルは隣同士なのに、コミュニケーションを取ろうとしません。互いに恐怖心を持っているからです。そうならないよう相手を知ることが大切です。友人でも勘違いからけんかに発展します。

 世界にはまだ会ったことのない友人がいっぱいいます―。メッセージにも、そう書きました。若者には平和教育を通して世界に関心を持ち、他者と関わってもらいたいです。(文・山本祐司、写真・福井宏史)

アシュリ・サウザー
 米国カンザス州出身。同州立大を卒業後、広島県世羅町で英語指導助手を務める。パレスチナ滞在を経て、アメリカン大大学院で国際紛争解決法を学ぶ。03年、再びパレスチナへ。07年、武田中高に着任。東広島市在住。

(2016年9月14日朝刊掲載)

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