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連載・特集

カープ新井 反骨の2000安打 麦の心 ゲンの姿に心打たれる

 プロ野球、広島東洋カープの新井貴浩(39)が史上47人目の通算2千安打を達成した。ドラフト6位以下で入団した大学出身選手では初めての到達。下位入団からはい上がり、4番失格の挫折を乗り越え、涙の移籍と覚悟の復帰を経ての大記録だ。反骨心で突き進んできた新井の野球人生を追った。

 神戸市にある新井の自宅には、1枚の色紙が飾ってある。「麦のように生きろ」。踏まれても、踏まれても、強く真っすぐ伸びる麦のように―。被爆者で漫画家の故中沢啓治さんが、新井に送ったメッセージだ。

 新井は漫画「はだしのゲン」の大ファン。8歳の時に夢中となり、原爆投下後の広島でたくましく生きる少年の姿に心打たれた。プロ野球選手となった今も、時に読み返す。「野球ができる。当たり前の日常は本当に幸せなこと」

 ゲンの生みの親である中沢さんは大のカープファンで、新井の大ファンだった。広島での「成長期」はもちろん、阪神移籍後はプロ野球選手会の会長としても注目。東日本大震災が起きた2011年は被災地のつらさに思いをはせ、開幕延期を訴える姿に感じ入ったという。

 この年、2人は出会う。天満小3年で新井の担任だった佛圓弘修さん(60)=広島都市学園大准教授=が、被爆の証言活動を続ける中沢さんと知り合ったのがきっかけ。「正義感が強くて反骨心の塊。ゲンにとてもよく似た教え子がいるんです」。手元にあった黒ずんだ漫画本を見せ、「手あかのほとんどが阪神の新井選手のもの」と、放課後の教室で熱心に読み込んでいた思い出も紹介した。

 その後、中沢さんは肺がんを患って広島市内で入院。9月にマツダスタジアムでの広島戦を終えた新井は、サイン入りのバットなどを持って見舞った。中沢さんの妻ミサヨさん(73)は「2人で野球の話ばかり。夫の質問に丁寧に答えてくれてね」。中沢さんは漫画の冒頭で父がゲンに語る言葉を色紙に記し、新井に贈った。

 「いつか球場で応援したい」。その願いはかなわず、中沢さんは12年暮れに亡くなった。ミサヨさんは「ゲンに込めた思いが伝わって、本当にうれしそうだったの。またカープのユニホームで頑張ってる姿を見たら、どんなに喜ぶでしょう」。麦のように生きる打者の2千安打到達を天国へ報告した。(山本修)

(2016年5月2日朝刊掲載)

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