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社説・コラム

『潮流』 リスクに向き合う

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 生涯つきまとう放射線被害の影におびえてきた被爆者。その思いを知る広島だけに、知らんぷりはできないのではないか。

 東京電力福島第1原発で事故後に働き、白血病になった男性の話である。13日朝刊の特集面「グレーゾーン 低線量被曝(ひばく)の影響」で紹介した。申請から1年半後にようやく労災と認定され、「自分は幸運だった」と周囲への感謝を口にする。一方で、放射線によるリスクについて「働く前にもっと説明が必要」と指摘していた。

 可能性がいかに小さくても、起こりうるリスクには万一の事態を考えて十分な備えをしてほしかった―。そんな思いもあったのだろう。

 男性の場合、浴びた放射線量は累計で20ミリシーベルトにも満たない。わずかな放射線でもリスクと線量とに比例関係があると仮定した上で、被爆者のデータを基に計算すると、20ミリシーベルトの場合、リスクは0・01倍程度増えるにすぎない。

 問題は、これをどう考えるかだろう。もしリスクは0と切り捨てるのであれば、「安全神話」にとらわれた発想でしかあるまい。そこから抜け出して、きちんとリスクに向き合う必要がある。

 というのも、今後が気になるからだ。廃炉を含めた事故処理には、30~40年もの年月と、被曝しながら作業に当たる人が多く求められる。

 男性は、リスクの事前説明とともに労災認定のスピーディーな判断の必要性を訴え、こうも言っている。「こんな状況では、廃炉のために働く人は増えない」。当事者たちには耳の痛い言葉だ。

 放射線が関係するだけに自然環境だけではなく、働く人々の安全や安心をどう確保するか。リスクの周知と万一の場合の迅速な対応は、廃炉の時代への備えとして欠かせないだろう。もちろん広島に限らず、原発を抱える地域全てに共通する課題である。

(2016年4月21日朝刊掲載)

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