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社説・コラム

天風録 「心揺さぶるヒロシマ」

 血も涙もない鬼だ―。70年余り前まで日本人は米兵をそんな言葉でさげすんだ。古今東西、あまたの国が敵を憎むべき存在と見立てて、戦争に駆り立てた。そして戦地へ送り込んだ自国民をもまた鬼にしてしまった▲広島、長崎を地獄絵に変えた米国も今や同盟国。ケリー国務長官が外相会合で広島入りし、きのう原爆資料館を見学した。黒焦げの弁当箱やぼろぼろの三輪車、ケロイドの被爆者の写真を前にどんな顔を見せただろう▲長官もむごい実相に表情をゆがめたか、目を腫らしたか。一行の予定は20分も延びたそうだ。お国の意向か、報道陣を閉め出す一方で、芳名録には素直な感情を書き込んでいる。世界中の人々が資料館を見て、感じるべきだ-▲献花した原爆慰霊碑の前で岸田文雄外相に話しかけたのも、みんなで原爆ドームに行こうという提案だったらしい。地下に眠る死者たちの声なき声が心に届いて、揺さぶったと思いたい▲オバマ大統領の訪問が現実味を帯びてきた。広島スピーチも検討中と米紙は報じた。子どもが犠牲となる銃乱射事件に涙した人である。被爆地で目が潤まぬはずがない。「核兵器なき世界」へ揺るがない決意を今度こそ聞きたい。

(2016年4月12日朝刊掲載)

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