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社説・コラム

社説 7ヵ国外相 平和公園へ 核なき世界へ決意示せ

 広島市で10、11両日に開かれる外相会合で、参加7カ国の外相が平和記念公園を訪れることが決まった。核保有国である米国、英国、フランスの現職外相が訪れるのは初めてである。

 「核なき世界」を実現するため、核保有国の外交責任者が被爆の実相に触れることは極めて重要だ。今回の開催が、核兵器廃絶の機運を再び盛り上げる契機となることを願う。

 会合には岸田文雄外相のほか、ドイツ、イタリア、カナダ、欧州連合(EU)の外相らが参加する。議題の中身はもちろん大切だが、今回さらに被爆地開催という重みが加わる。

 都市への核攻撃がどれほどの惨劇をもたらしたか。市民を無差別に殺傷し、今なお後障害で苦しめる兵器が人道上、許されるのか。それは被爆地を訪れてこそ実感できるはずだ。

 とりわけ核保有国の外相は、原爆資料館の展示をじっくり見つめて考えてほしい。被爆者から直接証言を聞く場も、ぜひとも設けてもらいたい。

 平和記念公園や原爆資料館は多くの観光客を引き寄せる。一方で原爆投下前、一帯が繁華街だったことを知らない人も多い。折しも、資料館の耐震化工事に伴い、失われた町の発掘作業が進んでいる。外相たちには、黒焦げになった町の跡が埋もれている様子も見てほしい。無差別攻撃のむごさが胸に刻み付けられるに違いない。

 今回、米国からケリー国務長官が出席する意味は大きい。米国では原爆投下を正当化する世論が根強い一方、若者を中心に変化の兆しも出ている。ケリー氏の被爆地訪問が実現した背景には、これらの世論を見極めながら、核軍縮への決意をあらためて示す狙いがあろう。

 その上で、オバマ米大統領の被爆地訪問につながるか注視したい。「核なき世界」を掲げ、ノーベル平和賞も受賞したオバマ氏はかねて前向きな姿勢を示してきた。5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせ、被爆地を訪問するとの観測はある。今回のケリー氏の訪問をめぐる国内外の反応を見極め、大統領の被爆地訪問を最終判断する、というのがホワイトハウスの筋書きかもしれない。

 原爆を投下した米国の現職大統領が被爆地に立つことには、さまざまな反応が予想されよう。国内では肯定的な意見が多いようだが、複雑な受け止めが出る可能性もある。米国でも世論が割れ、米大統領選に影響するとの見方がある。

 しかし、オバマ氏が被爆地で犠牲者を悼んで平和を誓い、核廃絶への強い決意を語ることにつながれば画期的な出来事だ。単に大統領の政治的レガシー(遺産)づくりという意味以上に、核兵器廃絶の機運が世界的なうねりとなる可能性もある。

 世界ではいま、核兵器をめぐる危険な思想が顕在化しつつある。米大統領選候補のトランプ氏が、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討に核兵器を使う可能性に触れたことはその一例だ。こうした誤った考えを正すためにも、オバマ氏の被爆地訪問につなげたい。

 外相会合の成否は被爆地のメッセージをいかに現実の政治に盛り込むかにかかる。核兵器による惨禍を繰り返さないためには廃絶しかない。その思いを世界が共有する場にしてほしい。

(2016年4月4日朝刊掲載)

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