×

連載・特集

グレーゾーン 低線量被曝の影響 第1部 5年後のフクシマ <6> 林業再生へ期待と不安

 森林が村の75%を覆う福島県飯舘村。東京電力福島第1原発事故で、全村避難を強いられた。来年春までに、帰還困難区域を除いて避難指示は解除される。住民帰還の安全対策ともなるだけに、森林除染への期待は強い。

 とりわけ熱心なのは、村の森林組合だ。佐藤長平組合長(65)は「林業復活は悲願だ」と強調する。現在は、家の周りの防風林などの除染作業を受注している程度。「生活圏の除染が終われば仕事がなくなる。森林除染は、生活をつなぐものでもある」

 一方で、不安もくすぶる。村内にある企業の農業研修所で管理人を務める伊藤延由さん(72)は森に通い線量測定を続ける。「ワラビ3047ベクレル、コゴミ3481ベクレル…。木の樹皮も高い」と住民の帰還にも反対している。「世代を超えて森林と共生してきた営み全体を、原発事故は奪った」

20キロ圏の焦り

 避難指示解除が見通せない地域では、状況はより厳しい。第1原発から西へ約50キロの三春町。プレハブをつないだ建物に、双葉地方森林組合の暫定事務所が入る。事故前は、原発の南約6キロの富岡町内、帰還困難区域の中に拠点があった。仮住まいの周りに広がる森林は、「よその土地」だ。

 「植林したばかりの場所もあった。管理しないと荒れてしまう。いまごろ雑草に負けているだろう」。秋元公夫組合長(68)は、原発が立地する双葉、大熊両町を含めた管轄8町村の地図を示す。林業活動ができるのは、原発から20キロ以上離れた一部の地域だけだ。

 福島県は、木を搬出する際の空気中の放射線量などの基準値を定めている。避難区域では、それを上回る所が少なくない。「避難解除は広がっていく。しかし国有林管理の仕事が発注されるまで長くかかるだろう。避難者として、山林管理よりも生活のことで精いっぱいの人もいる」

「里山」は除染

 さらに昨年12月、県内の林業関係者を不安にさせる動きがあった。環境省の検討会が、人の立ち入らない森は除染の対象から外す方針をまとめたのだ。

 福島県や同県議会が国に再考を迫った。結果、生活に関係する「里山」は対象とする方向に転じた。

 「徹底的な除染となれば双葉では100年たっても終わらない」。そんな本音ものぞかせながら、秋元さんは「どこまでが里山といえるのか、地元が一番知っている。国は住民と相談しながら進めてほしい」と念を押す。森林整備や除染作業に伴う被曝(ひばく)をどう抑えるのか、対策も訴える。

 放射線で奪われたなりわいの場を取り戻すまで、道のりは遠い。豊かな自然に刻まれた、見えない敵との格闘は続く。(金崎由美)

森林の放射性物質
 原発事故で森林に降った放射性物質は、地表や、木の幹の表面、葉に付着した。それが雨や落ち葉などを通して地表に移動。腐葉土や、地面から数センチの浅い地層に、主に放射性セシウムがたまっているとみられる。

(2016年3月8日朝刊掲載)

年別アーカイブ