社説 高浜再稼働「同意」 知事の判断 拙速すぎる
15年12月24日
首をかしげざるを得ない。福井県の西川一誠知事が、関西電力高浜原発3、4号機(同県高浜町)の再稼働に同意した。
再稼働に司法が曲がりなりにも「待った」をかけている重みをどう考えたのだろう。4月に福井地裁が下した運転差し止めの仮処分のことだ。耐震性などに関する国の新規制基準を「合理性に欠く」と断じた。
関電の異議申し立てに対する司法判断が、あす示される。決定が覆らなければ知事同意は意味を成さない。なぜ、せめて2日待てなかったのか。
きのうの記者会見で知事は「皆さんの議論や判断が積み重なって今日になった。どちらが先とか後とかというタイミングではない」と述べた。漠然とした答えであり、どれほどの人が納得しよう。
あすの福井地裁の判断がどんな結果になろうとも、知事は県民の安全を守り、引き続き原発事故の不安を取り除く義務があるはずだ。例えば関電が、高浜原発の懸案とされていた施設内のケーブルを燃えにくいものに替えるなどの対策を今後進めていくことも、もっと広く知らせるべき情報ではないか。
それなのに県としての住民説明会を開かず、今後も開催の考えはないという。隣の京都府が30キロ圏の7市町と共催で開いたのとは対照的だ。鹿児島県の川(せん)内(だい)原発も愛媛県の伊方原発も、住民説明会を経てから知事が再稼働に同意している。西川知事の言う、積み重なった議論と判断は何を指すのだろう。
再稼働同意の条件に、知事が政府に強く求めたのは「原発への国民理解の促進」の文言だった。これを受けて林幹雄経済産業相は全都道府県で国主催のシンポジウムや説明会を開く方針を示した。だからといって立地県自身が説明する責任を放棄していいわけはない。
そもそも福井県は市町任せにしているのではないか。あの福島第1原発事故のような事故が起きると、県が前面に立たなければ大混乱を招きかねない。
過酷事故を想定した場合に、欠かせない肝心の広域避難計画も先週まとまったばかりだ。近隣府県の住民が加わった合同訓練も開かれていない。これも大きな問題ではないか。
30キロ圏の住民は福井県で5万5千人、京都府で12万5千人を数え兵庫、徳島県に逃れる算段をしている。ところが避難経路となる道路事情は良くなく、乗り合いを想定するバスなどの車両確保も確実ではないという。
高浜原発は半島の付け根近くにあり、伊方原発と同じように住民が孤立する恐れもあろう。近くの放射線防護施設への退避や、関電が手配する船やヘリコプターでの避難を想定しているが、どこまで実効性があるか検証されていない。
西川知事が同意に前向きになったのは官邸や経産省側との面会を重ね始めた秋ごろからという。再稼働を願う立地県の中でも原発が集中する福井県がとりわけ関連の雇用や交付金に強く依存するからであろう。
ただ安全とてんびんにかけられないはずだ。福島の事故から5年が近づく中、教訓が薄れつつあるのは気掛かりだ。「想定外」は起こる。住民の暮らしや命を守るためにやるべきことをやったか、自治体のトップはそれを確かめるのが先である。
(2015年12月23日朝刊掲載)
再稼働に司法が曲がりなりにも「待った」をかけている重みをどう考えたのだろう。4月に福井地裁が下した運転差し止めの仮処分のことだ。耐震性などに関する国の新規制基準を「合理性に欠く」と断じた。
関電の異議申し立てに対する司法判断が、あす示される。決定が覆らなければ知事同意は意味を成さない。なぜ、せめて2日待てなかったのか。
きのうの記者会見で知事は「皆さんの議論や判断が積み重なって今日になった。どちらが先とか後とかというタイミングではない」と述べた。漠然とした答えであり、どれほどの人が納得しよう。
あすの福井地裁の判断がどんな結果になろうとも、知事は県民の安全を守り、引き続き原発事故の不安を取り除く義務があるはずだ。例えば関電が、高浜原発の懸案とされていた施設内のケーブルを燃えにくいものに替えるなどの対策を今後進めていくことも、もっと広く知らせるべき情報ではないか。
それなのに県としての住民説明会を開かず、今後も開催の考えはないという。隣の京都府が30キロ圏の7市町と共催で開いたのとは対照的だ。鹿児島県の川(せん)内(だい)原発も愛媛県の伊方原発も、住民説明会を経てから知事が再稼働に同意している。西川知事の言う、積み重なった議論と判断は何を指すのだろう。
再稼働同意の条件に、知事が政府に強く求めたのは「原発への国民理解の促進」の文言だった。これを受けて林幹雄経済産業相は全都道府県で国主催のシンポジウムや説明会を開く方針を示した。だからといって立地県自身が説明する責任を放棄していいわけはない。
そもそも福井県は市町任せにしているのではないか。あの福島第1原発事故のような事故が起きると、県が前面に立たなければ大混乱を招きかねない。
過酷事故を想定した場合に、欠かせない肝心の広域避難計画も先週まとまったばかりだ。近隣府県の住民が加わった合同訓練も開かれていない。これも大きな問題ではないか。
30キロ圏の住民は福井県で5万5千人、京都府で12万5千人を数え兵庫、徳島県に逃れる算段をしている。ところが避難経路となる道路事情は良くなく、乗り合いを想定するバスなどの車両確保も確実ではないという。
高浜原発は半島の付け根近くにあり、伊方原発と同じように住民が孤立する恐れもあろう。近くの放射線防護施設への退避や、関電が手配する船やヘリコプターでの避難を想定しているが、どこまで実効性があるか検証されていない。
西川知事が同意に前向きになったのは官邸や経産省側との面会を重ね始めた秋ごろからという。再稼働を願う立地県の中でも原発が集中する福井県がとりわけ関連の雇用や交付金に強く依存するからであろう。
ただ安全とてんびんにかけられないはずだ。福島の事故から5年が近づく中、教訓が薄れつつあるのは気掛かりだ。「想定外」は起こる。住民の暮らしや命を守るためにやるべきことをやったか、自治体のトップはそれを確かめるのが先である。
(2015年12月23日朝刊掲載)