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社説・コラム

天風録 「原発とゴミ箱」

 近所のコンビニからも消えていた。人気商品ではない。ごみ箱である。家庭ごみなどを持ち込む人に困り果てたらしい。だが店先で食べた弁当殻を散らかす客が現れ、やはり店の周りは汚される…。店主から嘆きを聞いた▲とんでもないごみを捨てる輩(やから)を、きのうの本紙で知る。原発事故後の福島で除染作業に使ったマスクや手袋である。放射性物質が付着しているかもしれないのに線量を測るのは面倒だからと、立ち寄るコンビニでポイ▲除染作業のマニュアルまでごみ箱に。あまりの無造作、無神経さに驚く。迷惑千万なのは店員や地域の住民だろう。片付ける際、放射性物質に触れる恐れもある。店の方も測定機器を用意しなくてはならないのか▲たがが緩み、何ともモラルが低下した実態である。事故現場の周辺で国直轄の除染が本格化した3年前から、ずっとらしい。苦情を言っても減らない。健康への影響は出ていないというが、捨て置くわけにはいくまい▲ごみは決められた場所に。子どもでも分かる常識だろう。原発の今後と重ねたくなる。核のごみがたまっているのに処分場は決まらない。それでも再稼働は進む。「国が責任を持つ」なら、ごみ箱から。

(2015年10月27日朝刊掲載)

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