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社説・コラム

『記者縦横』 70年前に重なる「色彩」

■文化部・石川昌義

 戦前や戦中の日常を記録したカラー映像を見ると、はっとする。色彩に満ちた映像で伝わるのは、人々の息遣いや生活感だ。「私たちと変わらないような先人の暮らしはどうして、重苦しいものに変質していったのか」。終戦の日を前に連載した「民の70年・秘密と戦争」の出発点になったのは、こんな疑問だった。

 「王道楽土」とうたわれた満州(現中国東北部)に渡った10代の少年たち。戦後70年を経て老境に達した彼らを各地に訪ねた。手記集を読み、対話を重ねて知ったのは、一般的に語られる、国策にだまされた被害者としての姿だけでなく、ムードに流され、知らず知らずに互いを導き合った、もろい個人の姿だった。

 かいらい国家だった満州国の実態は収奪と圧政だった。誰もが頼りにした軍隊が住民を見捨てて真っ先に逃走した。そんな後付けの知識で当時の人々を「愚かだった」と切り捨てるのは簡単だ。しかし、自分が当時を生きる立場なら、実態を見抜いて抵抗できたのかと考えると、自信はない。

 振り返って現代を見る。安全保障関連法案に反対する市民の主張を与党議員が「極端に利己的な考え」と非難する。「政治的中立性」を理由に、催事や芸術作品の内容にまで政治家や行政が口を出す…。

 暗黒時代は突然、姿を現すものではない。色鮮やかで平和に見える私たちの日常が、徐々に変色していないだろうか。社会の劣化に気付く材料は、わずか70年前の歴史にある。

(2015年8月21日朝刊掲載)

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