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社説・コラム

民意くむ姿勢 感じられぬ 報道部長・下山克彦 安保法案 衆院通過

 あえて書く。「通過してしまった」と。安全保障関連法案が16日、衆院本会議で可決された。その内容にまず疑義がある。それに加え、聞く耳持たぬとばかりに突き進もうとする安倍政権の姿勢に、強い違和感を覚える。

 集団的自衛権の行使が可能になれば、戦後の防衛政策の大転換だ。海外からの視線も変わるだろう。ある意味、国の在り方を左右する局面である。それに値するほどの審議であり、説明だっただろうか。

 憲法学者や法の番人である内閣法制局長官経験者の多くが、口をそろえて「違憲」とした。それなのになぜ事を急ぐのか。違憲立法の懸念は強まるばかりだ。そう考えたとき、永田町に漂う「安倍なるもの」に思いを致さざるを得ない。

 論戦の中で首相自らやじを飛ばし、党首討論では具体論に深入りせず、「全く正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから」と言い放つ。自民党幹部は「失言」がないように若手議員のテレビ出演を禁じ、「決めるときは決める」と力を込める。元来「ハト派」「護憲派」とされてきた派閥は、何を恐れてか声を潜めるばかりだ。

 直線的な、異論を排除するムードは熟議とは程遠く、憲法が権力を律する立憲主義をも揺るがしている。「マスコミを懲らしめるには」などといった自民党議員の報道批判発言についても、こうした雰囲気と無縁ではないだろう。

 政治家として、確かに信念は必要だ。しかしもっと大切なのは、常に民意をくもうとする姿勢のはずだ。

 その国民の目は今、厳しさを増す。報道各社の世論調査で法案を疑問視する結果が続出し、内閣支持率も下がってきた。耳を傾ける姿勢が与党にあるか。議論を尽くしたとする物言いからは、到底感じられない。

 安保関連法案に揺れる夏。被爆70年の8月6日もまた巡り来る。法案への賛否は人それぞれだろう。ただ、二度と戦争を起こさないと誓ったヒロシマの地で、私たちは先達の思いをきちんと受け止め、声を上げているだろうか。自分のこととして捉え、法案について考えているだろうか。

 選挙で信任を与えたとしても、全てを白紙委任したわけではない。国の在り方を決める主権者として、無関心はまた許されまい。未来に大きく影響するとすればなおさらである。法案は、私たちにそれを突きつけている。

(2015年7月17日朝刊掲載)

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