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社説・コラム

天風録 「広島を見ることから」

 広島ですべて見たわ。そう語るフランスの女性に、原爆で家族を奪われた男性が返す。「いや君は何も見ていない」。奥深いやりとりが日仏合作映画「ヒロシマ・モナムール」に出てくる。60年近く前に被爆地でロケをした▲バラックが立ち並ぶ街で、女性は被爆者の姿に触れ、原爆資料館に足を運んで惨状を知る。それでも広島や戦争の悲しみを理解することは容易でない―。そんなメッセージも宿す。この夏、広島市内で再び上映される▲来年のサミット会場から漏れたものの、広島が外相会合の地に浮上した。せめて外交責任者に原爆の実態に接してほしい。非道を知り、核廃絶を誓えば被爆者のみならず人類の希望となる。地元の要請を岸田文雄外相もしっかり受け止めたようだ▲核保有国の米英仏の出方も気になるが、核の恐怖を直視するよう促すべきだ。資料館には、あまたの外国要人が言葉を残した。11年前にはパリ市長も「広島の苦悩はわれわれの苦悩」と▲70年の時を経て被害を全て見るのは難しくなった。だが世界の指導者がこの地を踏み、原爆ドームを仰ぎ、被爆者の声を聞く意義は大きい。平和を築くため、まずは広島を見なければならない。

(2015年6月19日朝刊掲載)

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