×

ニュース

白内障2人 原爆症認定 広島地裁 新基準判断覆す 他の2人は棄却

 白内障を患う広島県内の被爆者4人が、原爆症の認定申請を却下されたのは不当として国に処分の取り消しや慰謝料など300万円を求めた訴訟の判決が20日、広島地裁であった。梅本圭一郎裁判長(小西洋裁判長代読)は国の審査について「内部被曝(ひばく)の影響を考慮しておらず、被曝線量を過小評価している疑いがある」と指摘。2人を原爆症と認め、却下処分を取り消した。他の2人の請求や、損害賠償の請求は退けた。(根石大輔)

 国が2013年末に見直した新たな審査基準で認定されなかった被爆者を原爆症と認める判決は5例目。白内障患者は初めて。

 梅本裁判長は国の被曝線量の算定方法について「放射性降下物などによる放射線については内部被曝の影響を考慮しておらず、地理的範囲や被曝線量を過小評価している疑いがある」と指摘。「被爆の状況や行動、症状などをさまざまな形で検討する必要がある」とした。

 その上で、4人のうち2人は「健康に影響があり得る量の放射線に被曝しており、原爆が原因で発症した」「目薬による点眼治療は医療に当たり、認定要件を満たす」として原爆症と認定。「発症原因は老化。点眼は治療とはいえない」との国側の主張を退けた。

 他の2人は「加齢で発症したとみるのが合理的」などとして請求を棄却した。

 訴状などによると4人は70~84歳で、1945年8月6日に爆心地から1・3~3キロで被爆。白内障を患い、07~08年に原爆症の認定を申請した。国が08年に要件を緩和した基準で審査され、却下されたため、11年に提訴した。国は13年末にも基準を見直し、白内障の被爆距離の条件を「爆心地から約3・5キロ以内」から「約1・5キロ以内」に厳しくする一方で「基準内の被爆者を積極認定する」としたが、4人は新基準でも認定されなかった。

 原爆症認定をめぐる広島地裁の訴訟では、広島県内とブラジル在住の被爆者27人が提訴。先行して結審した白内障の4人に判決が言い渡され、他の23人の審理は継続している。

 原告側は、請求を退けられた2人について控訴を検討する方針。厚生労働省は「国の主張が一部認められなかったと認識している。関係省庁と協議して対応を決める」としている。

救済重視の判決

元広島大原爆放射線医科学研究所教授で東北大医学部の細井義夫教授(放射線生物学)の話
 科学的な合理性より被爆者救済を重視した心情的な判決だ。病気の原因が原爆かどうかは科学的な証拠があるかどうかで判断するべきで、明確な被曝線量が明らかでないのに認定するべきではない。ただ、科学的に認定するかどうかと被爆者救済とは別の問題で、国が政治的判断で救済するべきだ。

原爆症認定制度
 原爆による放射線で病気になり、治療が必要な状態にあると国が認めた被爆者に、月額約13万5千円の医療特別手当を支給する。審査は厳しく、受給者は被爆者の5%に満たない。認定をめぐる訴訟で国の敗訴が相次いだため、国は2008年、爆心地から約3・5キロ以内で被爆するなどの条件で、がんや白血病などの特定疾病を積極的に認定する審査基準を導入。13年末にも基準を見直した。

【解説】国と司法の溝浮き彫り

 原爆症の認定申請を国に却下された白内障患者をめぐる20日の広島地裁判決は、1月の大阪地裁判決に続いて国の審査基準を明確に否定する判断を示した。2013年末からの新基準で認定されていない原告4人のうち2人が原爆症と認められ、国と司法の乖離(かいり)があらためて浮き彫りとなった。

 判決は国の被曝線量の算定方法を「地理的範囲や線量評価を過小評価している疑いがある。一応の目安とするにとどめるべきだ」と指摘。その上で「被爆状況や症状など、さまざまな形で検討する必要がある」として「総合的な判断」の重要性を強調した。

 国と司法の溝は、判決が原爆症と認めた女性のケースが象徴する。

 女性は爆心地から約2・4キロで被爆。国が積極認定する「約1・5キロ以内」の範囲から外れ、国は「健康に影響を及ぼすような線量の被曝をしたとはいえない」として認定してこなかった。一方、判決は女性の被曝線量を「国の基準を下回る」としながらも、放射性降下物を含む「黒い雨」に打たれ、爆心地から約1キロで被爆して約10日後に亡くなった姉と同居していた影響などから「健康に影響があり得ると認めるのが相当」と判断。女性を原爆症と認めた。

 被爆から70年。被爆者の高齢化が進む中、救済に残された時間はあとわずかだ。国は司法の警鐘を受け止め、原爆症の審査の在り方を抜本的に見直すべきだ。(根石大輔)

(2015年5月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ