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連載・特集

憲法と向き合う 特定秘密保護法 「戦争放棄」の理念揺らぐ

 「呉がやられたら日本は終わりじゃ」と呉市民の動揺が激しく、警察は市内要地に検問所を設置し市民の言動を監視した―。中国新聞社が1975年に出版した「呉空襲記」の一節だ。呉空襲を経験した広島市東区の会社員杉林晴行さん(75)は、戦時中の情報統制を物語るその一節に、2014年12月に施行された特定秘密保護法を重ね合わせる。

無効確認の訴訟

 国防や外交の秘密漏えいの罰則を強化した同法は憲法違反だとして、国を相手取り無効確認を求める訴訟を同年11月、広島地裁に起こした。「集団的自衛権の行使容認と一体になれば、国民に情報を隠して多くの死者を出した太平洋戦争と同じ道を歩むことになる」。憲法を丹念に読み直し、自ら訴状を書いた。

 呉空襲の時、杉林さんは5歳。真っ赤に燃えるトタンが夜空に舞い上がる光景や、防空壕(ごう)内にこもるやけどした人の臭いを鮮烈に覚えている。戦後の食糧難をしのぐため山に入ってアケビやシバグリをかじった。

 不動産会社を営んだ30~40代は、苦しい経験を振り払うかのように、釣りやマージャンに没頭した。平和運動とは無縁の「ノンポリ」。呉空襲記も読んだが、当時は「平和憲法がある限り、自由にものが言えない社会は二度と来ない」と心配していなかった。

 ところが、13年に安倍政権の下、特定秘密保護法が強行採決で可決された。「テロの恐れなど理屈を付ければ何でも秘密にできる」と危機感を覚えた。さらに昨年7月には、憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認を閣議で決定。戦争放棄をうたう憲法の存在が揺らぎ、戦争体験者として、いてもたってもいられなくなった。

「伝え方」を模索

 杉林さんは、集団的自衛権の行使を容認した閣議決定の無効を求める違憲訴訟も起こしており、昨年12月の一審、ことし2月の二審はいずれも敗訴して上告中だ。特定秘密保護法の無効確認を求める訴訟も、国側は請求を退けるよう求めている。

 「戦争がいかに国民を痛めつけるか、どうすればそれを司法に伝えられるか」。杉林さんは知恵を巡らす。原告団のメンバーも募っている。

 原告団に加わった一人で、被爆体験記の朗読ボランティアに携わる廿日市市の主婦網本えり子さん(61)は最近、長野県から訪れた修学旅行生に「集団的自衛権についてどう思うか」と聞かれた。被爆地の考えを知りたがっているのだろうと察した。

 「『ごめんね、また戦争になっちゃったよ』と子どもたちに言わずに済むように何ができるか。普通の人たちが憲法の理念についてあらためて考え、行動していくしかない」(馬場洋太)

特定秘密保護法
 国の機密漏えいに厳罰を科す法律。防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野55項目のうち「国の安全保障に著しい支障を与える恐れがあり、特に秘匿が必要」な情報を特定秘密に指定し、漏えいに最高で懲役10年を科す。政府の恣意(しい)的な秘密指定や、国民の「知る権利」の侵害が懸念されている。

(2015年5月3日朝刊掲載)

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