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「ミリキタニ」画業たどる 広島県廿日市で展覧会 墨絵など初公開含む70点

 米国ニューヨークの路上で、絵を通じて平和を訴えた日系人画家ジミー・ツトム・ミリキタニさん(1920~2012年)。足跡をたどる展覧会「ミリキタニの猫」が、廿日市市のはつかいち美術ギャラリーで開催中だ。映画にも取り上げられた色鮮やかな作品に加え、戦後間もないころの墨絵も。日米のはざまに揺れた人生と、知られざる画業に触れられる内容だ。

 カリフォルニア州で生まれ、10代後半まで広島で育った。日本での兵役を拒み米国に戻ったが、日米開戦で日系人強制収容所へ。終戦後もすぐには解放されず、農場労働を強いられた。苦境下でも常に研さんを積み、「優れた日本の芸術を世界に紹介する」との高い志を胸に1948年、ニューヨークへ。住み込みで料理人をしていたが、雇用主の死で住まいを失い、路上生活に入った。

 そこでリンダ・ハッテンドーフ監督と出会う。どんな状況でも、誇りを失わず絵筆を執る姿を伝える記録映画「ミリキタニの猫」(2006年)は、世界で高い評価を得た。

 本展には、映画を縁に見つかった絵画や、広島市佐伯区の親戚が保管していた墨絵など初公開の作品を含む約70点が並ぶ。

 強制収容所や、兄と母方の親戚を奪った広島の原爆、間近に見た9・11がテーマの作品は、人類による醜い差別や争いの歴史を、インパクトある筆致で伝える。路上での売り上げにつながった猫や古里広島の柿の絵は、目が覚めるような色合いが印象的だ。多くはポスターの紙の裏などに鉛筆やクレヨンで描かれている。アールブリュットの雰囲気を漂わせながら、炎や猫の毛など細部に、専門的に学び得た技術をうかがわせる。

 一方、親戚宅で保管されていた1950年代の墨絵は、カワセミやタカが巧みな濃淡で描かれ、幽玄さが漂う。当時、作品と一緒に代金や米国の日用品を日本に送っては、表装を依頼していたのだという。

 面白いのは絵に添えたミリキタニさんの言葉。「川合玉堂 木村武山師事」「元日本美術院会員」「東京上野芸大卒」など本気か冗談か分からない記述がある。署名とともに手書きの落款印らしき絵も添えてある。英語を片仮名で書いたり日本語と英語が交じったりした表記も。多くの作品に「広島縣人」と記し、古里への思いもにじむ。

 「歴史の渦に巻き込まれながらも絵を描き続け、監督や周囲を動かし、強制収容所やヒロシマの歴史を広く知ってもらうことにつながった。その力に触れてほしい」と同ギャラリーの上田美穂学芸員。ちゃめっ気たっぷりに、自らを「巨匠」と称したミリキタニさん。ひたむきな画業を堪能できる。

 無料。31日まで。月曜休館。(森田裕美)

(2014年8月21日朝刊掲載)

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