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核なき世界追求 バイデン氏言及 副大統領時の演説 新政権控え注目

 バイデン氏の米国大統領就任を20日に控え、オバマ政権時代に副大統領として行った退任直前の演説に注目が集まっている。「核兵器のない世界」実現のため、米国が安全保障上の核兵器の役割を減らす必要性などを訴える内容。専門家と読み解き、新政権の核政策を展望する。(水川恭輔)

 演説はトランプ政権に交代する9日前の2017年1月11日、米ワシントンのカーネギー国際平和財団で行った。約30分にわたり、オバマ政権の8年間の核政策を総括。今も、同財団のホームページに動画が掲載されている。

 バイデン氏は、現職米大統領として初となる16年5月のオバマ氏の広島訪問に触れ、米国は核兵器廃絶へ主導的な役割を果たすべきだと強調。オバマ氏が広島訪問後に検討しながら、核抑止力の弱体化を懸念する声などを受けて見送った、相手が核を使うまで核攻撃しない「先行不使用」について推進の立場を鮮明にしている。

 ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の重要性や、「核テロリズム」の脅威も指摘している。核・平和問題に関する民間研究組織「ピースデポ」(横浜市)の梅林宏道特別顧問(83)は、バイデン氏の考えを知る上で重要な資料として、日本語訳をメーリングリストで紹介している。

<バイデン氏の2017年1月の演説の主な内容>

◆核兵器のない世界を実現するには、米国が主導的な役割を果たさなければならない。核兵器を使用したことがある唯一の国として大きな道義的責任がある
◆米国が核を先行使用する必要があるシナリオを思い浮かべることは困難。核攻撃を抑止し、必要であれば報復することを核保有の唯一の目的とすべきだ
◆核兵器以外の脅威は核兵器以外の方法で抑止して米国と同盟国を守れる
◆核兵器増強のためにさらなる財源をつぎ込んでも米国と同盟国の安全保障の上で何の役にも立たない

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先行不使用打ち出すか ピースデポ特別顧問・梅林さんが展望

 演説に注目しているピースデポの特別顧問で、長崎大・核兵器廃絶研究センター(RECNA)元センター長の梅林宏道さんにバイデン政権の展望を聞いた。

  ―演説で特に注目していることは何ですか。
 核兵器のない世界の方が核軍備競争する世界よりも安全で、核兵器による安全保障は究極的な安全保障ではないという考え方だ。演説から、バイデン氏が自分自身の信念として、そう考えていることがよく伝わってくる。

 それだけに、新政権は安全保障政策で核兵器の役割を減らす方向に向かうだろう。最も強力な武器として役割を強める方向にかじを切ったトランプ政権からの大きな転換が期待できる。

  ―具体的な政策は。
 核兵器の先行不使用が出てくるのではないか。演説では「できる課題」だと捉えている。相手の核攻撃の抑止を核保有の「唯一の目的」とすべきだとも訴えている。先行不使用の原理的理念だ。トランプ政権が核攻撃の対象に相手のサイバー攻撃も排除せず、使い道を広げたのとは対照的だ。

 先行不使用が核戦略に反映されれば、使用目的が狭まって不必要になる核兵器が削減される。オバマ氏も大統領在任時に検討したが、国内を説得し切れず断念した。実現には、米国の世論の力が重要だろう。

 就任直後の22日に核兵器禁止条約が発効する。欧州の北大西洋条約機構(NATO)諸国の中に、条約に参加すべきだという世論が強まっている国が出てきている。そんな欧州の市民意識は米国市民にも反映される。それが、核兵器の役割を減らす政策の後押しになるとも考えられる。

  ―核軍縮を巡る課題は。
 2月に、ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の期限が切れる。バイデン氏は延長へ交渉し、ロシアも応じるだろうが、最大の問題は、その延長期間に次の条約をどう結ぶかだ。

 ロシアは近年、最新兵器の極超音速弾頭を搭載したミサイルの配備などを進めている。ブッシュ(子)政権が、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を離脱し、ロシアの戦略ミサイルを無力化するミサイル防衛網を敷いたことが背景にある。新たな条約を結ぶには、攻撃と防衛の双方の問題を考える必要があるとみられ、ハードルが高い。

 バイデン氏が核軍縮に関わる政策を進める上で、8月に延期された核拡散防止条約(NPT)再検討会議は「使える場」だろう。期間中、核保有国の米ロ英仏中の会議もある。米国だけでは進めにくいことを他の国を味方につけ、やることができる。

 核兵器廃絶に向け、核兵器禁止条約への支持が国際社会でさらに広がるためにも、米国が核兵器の役割と数を減らす方向に向かうことが重要だ。新政権がそう動いたとき、日本政府は後押しすべきだ。

(2021年1月8日朝刊掲載)

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