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連載・特集

ヒロシマの記録2020 7~12月

核禁条約 希望へ一歩

7月

 1日 平和記念公園の被爆建物レストハウスが改修を終え、約2年半ぶりにオープン。外観は1929年の建設当時に近い姿に復元し、原爆で壊滅した旧中島地区のかつてのにぎわいなどを伝える展示を整備▽原爆資料館は新型コロナの影響で休止していた団体客の受け入れと、被爆者による証言活動などを再開▽被爆者健康手帳を持つ被爆者は3月末時点で13万6682人と、14万人を割り込んだことが厚生労働省のまとめで判明。平均年齢は0・66歳上がり過去最高の83・31歳

 16日 トランプ米大統領は、人類史上初の核実験から75年を迎えたのに合わせて声明を発表し、実験を「素晴らしい偉業だ」とたたえる。同時に新たな軍拡競争を阻止するため、中国とロシアに協力呼び掛け

 19日 中国新聞社が全国の被爆者団体を対象にしたアンケートで、回答した団体の37・1%が、被爆80年となる2025年に活動を継続できていないと考えていることが判明。理由は会員の高齢化や後継者不足が目立った▽広島原爆がさく裂した直下の「外科 島病院」(現広島市中区大手町)の院長だった島薫さん(1977年に79歳で死去)が書いた患者と医師、看護師らの死没者名簿が残っていることが判明。「約80人」とされる犠牲者のうち41人分を記す

 27日 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、朝鮮戦争休戦67年に際した演説で「核保有国として世界が認めざるを得ない戦略的地位についた」と強調。核放棄に応じない立場を鮮明にした

 28日 原爆資料館は被爆体験証言を受け継ぐ伝承者による講話を初めてインターネット経由で開催

 29日 原爆投下後に放射性物質を含んだ「黒い雨」を浴びて健康被害が生じたのに、国の援護対象区域外だったのを理由に被爆者健康手帳の交付申請を却下したのは違法として、広島市や広島県安芸太田町の70~90代の男女84人が市と県に却下処分の取り消しを求めた訴訟で、広島地裁が全員の却下処分を取り消し、被爆者と認めて手帳を交付するよう命じる判決を言い渡した。原告の全面勝訴▽広島大は、同大原爆放射線医科学研究所(原医研、広島市南区)が保管している原爆犠牲者の組織標本と解剖記録をデジタル画像化し、データベースを作ると発表▽広島市立大(安佐南区)は21年4月、大学院平和学研究科に博士後期課程を設けると発表

 30日 「黒い雨」を巡る訴訟で原告団と弁護団は広島市と広島県に控訴を断念し、速やかに手帳を交付するよう要望

8月

 1日 中国新聞社加盟の日本世論調査会が行った全国郵送世論調査で、17年7月に国連で採択された核兵器禁止条約に日本も「参加するべきだ」とした人は72%に上り、そのうち62%が「日本は唯一の戦争被爆国だから」と答えたことが分かった

 2日 日本原水協などの原水爆禁止世界大会が始まり、オンラインによる国際会議を開催。新型コロナ対策で広島や長崎などに集う形での開催を断念し、初めて世界各地をビデオ会議システムでつないで実施

 3日 平和記念公園の被爆建物レストハウスの前身「大正屋呉服店」で買われた反物2枚と浴衣3着が現存することが分かった。原爆資料館によると、同店の反物はこれまで確認されたことがない

 4日 広島県は米国のオバマ前大統領とローマ教皇フランシスコからメッセージが届いたと発表。それぞれ広島訪問の経験に触れ平和な世界の実現を訴え▽米空軍は核弾頭を搭載可能なICBM「ミニットマン3」の発射実験を行ったと発表

 5日 被爆前の広島の街や市民生活などを記録した写真3千枚以上が原爆資料館に寄贈されたと中国新聞が報道。現在の中区の本通り商店街の近くで理髪店を営み、被爆死した鈴木六郎さんが残していた▽県被団協(坪井直理事長)が、中区の広島平和会館で原爆死没者追悼慰霊式典を営む。例年は原爆の日に150人程度が参列していたが、新型コロナ対策で前倒して規模を縮小し、役員の被爆者たち10人が犠牲者を追悼▽被爆者の高齢化で活動が難しくなっている尾道市の「尾道地区原爆被害者の会」の運営を、被爆2世たちが引き継ぐと中国新聞が報道▽広島交響楽団の「平和の夕べ」コンサートが、広島市中区であり、広島の原爆で亡くなった女学生・河本明子さんを題材にしたピアノ協奏曲「Akiko’s Piano」を世界初演

 6日 広島に米軍が原爆を落として75年。広島市は平和記念式典を中区の平和記念公園で営み、松井一実市長は平和宣言で、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現には、市民や国家の「連帯」が必要と強調。日本政府を含む各国に核兵器禁止条約への署名・批准を強く求めた。新型コロナ対策として、参列者は例年の1割以下。安倍晋三首相や83カ国と欧州連合(EU)の海外来賓、被爆者団体の代表たち計785人が参列し、うち都道府県の遺族代表は過去最少の23人▽平和記念式典への参列を断念した国連のアントニオ・グテレス事務総長が式典にビデオメッセージを寄せ、モニターの画面越しに「核兵器の危険を完全に排除する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することだ」と強調▽安倍晋三首相が出席する広島市主催の「被爆者代表から要望を聞く会」が、中区のホテルであり、二つの広島県被団協など6団体の代表は「黒い雨」の援護対象区域の拡大や核兵器禁止条約の署名・批准を訴えたが、政府側から前向きな回答はなかった▽米大統領選で民主党候補のバイデン氏が広島への原爆投下から75年に合わせて声明を発表。「広島、長崎の恐怖を二度と繰り返さないため、核兵器のない世界に近づけるよう取り組む」として、オバマ前大統領が掲げた長期的な目標「核なき世界」を引き継ぐ決意を明確に

 8日 ロシア軍参謀本部は、同国を狙う敵の弾道ミサイル発射を察知した時点で自動的に「核攻撃」とみなし、核兵器で反撃する方針であることが明らかに。プーチン大統領が6月に公表した「核抑止力の国家政策指針」の運用を解説する論文が国防省機関紙に掲載される

 9日 長崎は被爆から75年の原爆の日を迎え、爆心地に近い長崎市松山町の平和公園で「原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が営まれた。田上富久市長は平和宣言で、小型核兵器の開発などが進み「使用される脅威が現実のものとなっている」と危機感を表明。規模は例年の1割程度に縮小し約500人が参列

 12日 「黒い雨」に国の援護対象区域外で遭い、健康被害を訴える広島県内の原告全84人に被爆者健康手帳を交付するよう広島市と広島県に命じた広島地裁判決で、被告の市と県、訴訟に参加する厚生労働省が広島高裁に控訴。加藤勝信厚労相(当時)=岡山5区=が援護対象区域について「拡大も視野に入れた再検討をする」と表明し、政府に控訴断念を求めてきた市と県が控訴に転じた

 13日 「黒い雨」を巡る援護対象区域拡大を視野に入れた検証で、被爆者らのカルテなどの分析を行うべきだとの意見が政府内で浮上していることが判明▽太平洋戦争の戦端を開いた旧日本軍による攻撃があった米国ハワイ州の真珠湾にある戦艦ミズーリ記念館で、「ヒロシマ・ナガサキ原爆・平和展」が11月末までの日程で始まる。広島、長崎両市と、同館を運営している戦艦ミズーリ保存協会の主催

 15日 終戦75年。全国戦没者追悼式に、中国地方から広島、山口両県の遺族9人が参列。岡山、島根、鳥取の3県の遺族は新型コロナ感染拡大を受けて参列を辞退▽長崎原爆の投下翌日に、遺体のそばで立ちすくむ様子を撮影され、原爆の惨状を伝える写真となった被爆者の龍智江子さんが90歳で死去

 21日 広島市が検討する市中心部の平和大通りのにぎわいづくりに対し、広島県被団協(佐久間邦彦理事長)は「通りの緑地帯には原爆の犠牲者を追悼する碑もあり、静かな空間が必要」と計画の撤回を求める意見を提出

 27日 厚生労働省は、広島原爆の「黒い雨」訴訟で勝訴した原告たちへの援護策として、長崎原爆の「被爆体験者」と同じ扱いをすることも「選択肢になる」との認識を示唆

9月

 1日 米国防総省は、中国の軍事動向に関する年次報告書を発表し、中国の核弾頭数が今後10年間で「少なくとも倍増すると推定される」と指摘。現在の弾頭数を200発台前半とみており400発台となる計算▽原爆資料館が、地下収蔵庫に保管する被爆資料を浸水被害から守るため止水板設置をテスト

 3日 旧陸軍被服支廠で、保存・活用に1棟当たり33億円と見込む耐震化費用をより安くできる工法を探るため、広島県が建物の強度の再調査に乗り出す方針を固めたことが判明▽広島市が、世界遺産の原爆ドームの鋼材を塗り替えるなどの保存工事を始めた。19年10月までに終える予定だったが入札不調で着工が遅れていた

 7日 広島で被爆し被爆証言の収集や保存に取り組んだ日本被団協の元代表委員の岩佐幹三さんが91歳で死去

 9日 核兵器廃絶を訴える署名活動「核廃絶!ヒロシマ・中高生による署名キャンペーン」の生徒代表4人が、広島市役所を訪れ、19年3月以降に集めた3万8487筆の署名を松井市長に提出。平和首長会議を通じて国連に届ける

 17日 「黒い雨」を巡る訴訟で原告が多く暮らす広島県安芸太田町議会が国と県に控訴の取り下げを求める意見書案を全会一致で可決

 21日 米国の「核の傘」に安全保障を依存する日韓や欧州などの同盟国の元首脳や元閣僚計56人が、核兵器の保有や使用を禁じる核兵器禁止条約の支持を表明し、自国の指導者に条約参加を求める連名の公開書簡を発表。日本からは鳩山由紀夫元首相、田中真紀子元外相、田中直紀元防衛相の3人が名を連ねた

 26日 核兵器の全面的廃絶のための国際デー。広島県原水協と県被団協(佐久間邦彦理事長)は、核兵器禁止条約の早期発効を求める署名を広島市中区の元安橋で集めた

10月

 1日 広島市が養成する「被爆体験伝承者」に応募した9期生の研修が始まる。被爆者が自らの体験を語る「被爆体験証言者」も募集したが、12年度の制度開始以来初めて応募がゼロだった。高齢化の影響が浮き彫りに

 7日 日本新聞協会が20年度の新聞協会賞を発表。中国新聞社の連載「ヒロシマの空白 被爆75年」「ヒロシマの空白 被爆75年 街並み再現」など計6件

 10日 北朝鮮は朝鮮労働党創建75年を迎え、平壌の金日成(キムイルソン)広場で大規模な軍事パレード。ICBMとみられる同国最大級のミサイルも公開し核戦力増強を誇示

 11日 広島原爆の爆心地について、現行の日本測地系での経緯度が明らかになったと中国新聞が報道。地理学が専門で元広島大原爆放射線医科学研究所助手、竹崎嘉彦さんが地理情報システム(GIS)を駆使して突き止め、国土地理院の「電子国土基本図」に表示

 18日 原爆小頭症の患者や家族たちでつくる「きのこ会」が広島市東区で総会を開催。24年ぶりの新会員となった横浜市の男性が初めて出席

 21日 核兵器禁止条約に反対する米国が、複数の条約批准国に批准取り下げを求める書簡を送っていたことが判明

 24日 核兵器禁止条約の批准数が発効に必要な50カ国に。90日後の来年1月22日に発効。「核なき世界」実現を求める国際世論の後押しを受け、核兵器を非人道的で違法と断じる国際規範が誕生へ

 27日 広島の被爆者7団体などでつくる「ヒバクシャ国際署名」広島県推進連絡会は、9月で終える予定だった活動を年末まで延長すると決定。核兵器禁止条約の発効確定を機に、新型コロナの影響で見送ってきた街頭署名に取り組む

 28日 広島一中(現国泰寺高、広島市中区)1年生だった12歳で被爆し、がんの手術を繰り返しながら、被爆体験と放射線による健康被害を伝えてきた児玉光雄さんが88歳で死去

 29日 新型コロナの影響で来年1月に延期されたNPT再検討会議について、議長を務めるスラウビネン氏(アルゼンチン)は再延期が決まったと同日までに発表。来年8月2~27日に開く方向▽日本原水協が核兵器禁止条約への署名、批准を日本政府に求める新たな署名活動を始める

11月

 6日 「黒い雨」を巡る国の援護対象区域の再検証作業で、広島県は鎌田七男・広島大名誉教授を、広島市は小池信之副市長を国に推薦

 10日 旧陸軍の依頼で原爆開発研究を試み、米軍の原爆投下直後に調査のため広島入りした当時の理化学研究所(理研)の仁科芳雄博士(1890~1951年、岡山県里庄町出身)の関連資料から、原爆犠牲者の遺骨が見つかったと中国新聞が報道

 12日 新型コロナの影響で原爆資料館を訪れる修学旅行生が大幅減と中国新聞が報じる。今年4~10月は約4万1千人と前年同期の2割

 16日 「黒い雨」の被害を巡り厚労省は、国の援護対象区域を再検証する検討会の初会合を東京都内で開催。同省は降雨区域のシミュレーションや土壌分析など五つの調査手法を説明。医学や気象を専門とする委員は、東京電力福島第1原発事故以降に得られた最新の知見や黒い雨を浴びた被爆者の手記を生かすよう求めた

 17日 九州電力は、全国で初めてテロ対策の「特定重大事故等対処施設」(特重施設)を整備した川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)を起動。福島原発事故を受け厳格化された新規制基準の要件を満たした最初の原発

 18日 原告84人が全面勝訴した「黒い雨」訴訟の第1回口頭弁論が広島高裁であり、被告の広島市と県、国側は「原告が被爆者である科学的知見は存在しない」とし、原告全員に手帳を交付するよう命じた一審広島地裁判決の取り消しを求めた。原告側は被告の控訴棄却を訴えた

 20日 広島市の松井一実市長と長崎市の田上富久市長は、核兵器禁止条約の発効確定を受け、外務省や与野党幹部たちを訪ね、日本政府の同条約への署名と批准を要請。当面は発効後1年以内に開催される締約国会議にオブザーバー参加し、核保有国と非保有国の「橋渡し役」として核軍縮にリーダーシップを発揮するよう求めた

 23日 広島電鉄(広島市中区)が、同社最古の被爆電車「156号」を33年ぶりに公開▽日没後の静かな雰囲気の中で平和を願う初の若者の集い「ピース・ナイト・ヒロシマ2020」が平和記念公園であり、中高生たちが平和宣言を発表。「被爆者の思いを受け継ぐことが私たちの使命」との決意を示す

 24日 ローマ教皇フランシスコが平和記念公園を訪れてから1年。「原子力の戦争目的の使用は倫理に反する」との教皇のメッセージを受け継ぎ、発信する催しが市内で相次ぐ▽次期米大統領に決まったバイデン氏が演説し「米国は同盟国と協力した時に最強になる」と述べ、同盟関係を軽視したトランプ外交からの決別姿勢を示す

 26日 日米両政府が共同運営する放射線影響研究所(放影研、広島市南区)の移転問題で、新たな移転先の候補に広島大霞(かすみ)キャンパス(同区)が浮上していることが判明。放影研と広島大の両者に研究の連携強化などの面でメリット

12月

 6日 今年で創業120年を迎えた広島市中区舟入町の料亭「羽田別荘」が、戦前に運営していた「羽田別荘少女歌劇団」の写真約200枚を保管していることが判明。原爆で壊滅する前の広島の芸能や風俗を伝える貴重な史料

 7日 国連総会本会議は、日本が毎年提出している核兵器廃絶決議案を賛成多数で採択。日本提出の決議採択は27年連続。賛成は昨年より10カ国少ない150カ国で、反対は中国やロシアなど4カ国、棄権35カ国。「核の傘」を提供する米国に配慮し、核兵器禁止条約に直接触れない内容となったことが賛成国の減少につながった可能性

 8日 廿日市市に住む岩田キヨ子さんが、平和記念公園の原爆供養塔に安置されていた兄の道原菊間さん=吉和村(現廿日市市)出身=の遺骨を受け取った。遺骨は広島市が理化学研究所(理研、本部・埼玉県和光市)から11月に引き取り遺族を捜していた

 9日 広島県の湯崎英彦知事は旧陸軍被服支廠の利活用について、国と市を交えた3者で検討を進める考えをあらためて示す

 12日 生命保険最大手の日本生命保険など生保主要4社が、核兵器製造・関連企業への投融資を自制していることが分かった

 14日 新型コロナの感染急拡大を受け、原爆資料館が再び休館

 17日 旧陸軍被服支廠で広島県が進めていた耐震性の再調査の結果が判明。耐震化して保存、活用するために必要な概算工事費は1棟当たり17億7千万円と、17年度の前回調査で見込んだ33億円のほぼ半額に

 18日 政府は閣議で地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の代替策として、イージス艦2隻の新造を含むミサイル防衛に関する文書を決定。「敵基地攻撃能力」保有の明記は見送り

 21日 政府が発表した21年度予算案で、厚労省は、広島原爆の「黒い雨」被害の援護対象区域を再検証するため、研究者らへの調査委託費として1億5千万円を盛り込んだ。11月の専門家検討会の初会合で降雨エリアを探る気象シミュレーションや土壌分析、文献調査など五つのワーキンググループの設置が決まっていた

 24日 核兵器廃絶を目指す平和首長会議の活動を海外から支援する専門委員に来年1月、核兵器禁止条約制定を主導したオーストリアの前外務省軍縮局長、トーマス・ハイノツィ氏が就任すると、同会議事務局を務める広島平和文化センター(中区)が発表

(2020年12月31日朝刊掲載)

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