3. 異常に多い肝機能障害
13年2月1日
第3章: 太平洋諸島・オセアニア
第2部: 第5福竜丸の被災者たち
第2部: 第5福竜丸の被災者たち
無視できぬ放射線被曝
さて、第5福竜丸の乗組員23人のその後だが、これまでに無線長の久保山愛吉さんを含めて8人が亡くなっている。交通事故で亡くなった1人を除いて、4人が肝臓がん、その他の人も死因はすべて肝臓疾患である。
この点について国立病院医療センター(当時国立東京第一病院)で主治医として乗組員の治療に当たり、4年前まで科学技術庁放射線医学総合研究所(千葉市)で毎年検診を続けてきた熊取敏之前所長(68)は、次のように説明する。
「乗組員の14日間の被曝線量は170ラドから最高600ラドくらい。血球が減ったり、ほぼ2年間無精子状態が続くなど放射線被曝症状が出ていた。しかし、肝臓障害が被曝による直接的な影響だとは断言できない。輸血の際のウイルス感染も考えられる」
熊取前所長の仕事を引き継ぎ、今も乗組員の検診に当たっている同研究所の青木芳朗障害臨床研究部長(52)は「1990年2月に受診した9人のうち、5人は何らかの肝臓疾患を持っていた」と言う。青木部長も放射線障害と関連づけることには慎重だが、「肝臓疾患が異常に多い」という現実は深刻に受け止めている。
東大付属病院で被災乗組員の主治医だった三好和夫徳島大名誉教授(75)は、ここ数年、肝臓障害で死亡するケースが多いことを心配する。「広島や長崎の被爆者に比べて、第5福竜丸の乗組員は呼吸や食物を通じて放射性物質を体内に取り込み、内部照射を受けた可能性が高い。体内に入った異質物をキャッチして、解毒したりする肝臓は影響を受けやすい」と指摘する。ウイルス感染の可能性についても三好名誉教授は「放射線を浴びれば免疫機能が低下するので、感染しやすくなる」と、被曝の影響を憂慮している。